建帛社だより 「つくし」

 平成21年9月1日号

すべての幼児にとっての「幼児教育」再考

東京家政大学教授 戸田 雅美

 年の3月、新しい幼稚園教育要領と保育所保育指針が告示され、本年4月から、現場ではそれらに沿って新たな保育が行われている。今回の改訂でクローズアップされた「幼児教育」について考えてみたい。

 回の改訂の背景には、平成18年に教育基本法が改正され、特に、第十一条で、幼児教育の振興が定められたことが、大きな変化の一つとしてある。また、同じく平成18年に、認定こども園の制度ができたことも大きい。

 定こども園は、これまでの幼稚園と保育所を一体化し、あわせて子育て支援の機能をもつ、まさに総合的な乳幼児のための保育の場として創設された。近年、認定こども園として認定されていない場合でも、地域の実情に応じ、これまで幼稚園と保育所の間にあった垣根を、さまざまな形で低くするような動きが急である。

 のような背景もあり、今回の保育所保育指針においては、保育における養護に関するものと教育に関するものが明確化された。従来から、保育所は養護と教育を一体的に行う施設とされてきたのであるが、保育所において、保育を構想したり振り返って考えるときには、養護と教育という二つの視点があることを、よりはっきりとした形で示したことになる。したがってこれからは、幼稚園においても、保育所においても、認定こども園においても、子どもは「幼児教育」を受けるということが、非常に明確に示されたといえよう。

 方で、一部の自治体において、幼稚園教育要領の範囲を超えて、漢字教育等の新たな内容を独自に行うという例がニュースなどに取り上げられるようになってきた。これまでも、一部の私立幼稚園においては、園の特色として独自の内容を行っていることはあったが、自治体として行うということは、その園の特色としてその園を選んで入園した子どもにだけ行われる「幼児教育」ではなく、その地域のすべての子どもたちがその保育内容を受けるということを意味する。すでに述べたように、これは幼稚園だけではなく、保育所や認定こども園においても、その「幼児教育」の内容が行われるということになると考えられる。

 在、地方分権の論議が盛んである。地方分権が進むということは、それぞれの地域に即した保育を考えることができるという点では大変望ましいことである。しかし、現在の流れをみていると、自治体の予算削減のための公立幼稚園や保育所の民営化が進むとともに、「幼児教育」の内容に独自性を出すことが一つの政治的アピールとして使われていく可能性も危惧される。地域の長として、例えば「漢字教育を地域の幼児教育の特色としてすべての子どもに行っている」ということが、政治的成果として力をもつ時代が来ているのではないかという危惧である。

 今、このような時代であるからこそ、「幼児教育」のあり方を再考し、真に「子どもたちのため」以外の目的に利用されることのないようにする努力が求められている。