建帛社だより 「つくし」

 平成22年1月1日号

家政学の専門性と総合性


―社会に向けて研究成果の発信を―

(社) 日本家政学会 会長
和洋女子大学 教授  畑江 敬子

 (社)日本家政学会は2008年に創立六十周年を迎えました。60年前、すなわち1949年とは第二次世界大戦が終わって世の中がすこしずつ落ち着きを取り戻していった時期かと思います。思います、というのはこの時代のことを身をもって体験した世代の多くの方はすでにリタイアされているからです。
 生活からみると、日本人の栄養摂取量の調査では、1949年(昭和24年)は肉類5.5g、魚55.8g、卵3.2gでした。現在は、肉、魚、それぞれ80g、卵35gです。このことを考えても、この時代はどのような時代だったのかと思います。
 の中にあって家政学会という新しい学問分野の学会を創設するという、諸先輩の熱意に深く敬意を表したいと思います。
 本家政学会の会員の専門分野は、衣、食、住、家族、経営、教育など多岐にわたっております。それぞれの専門分野では同じ分野の研究者が切磋琢磨して研究を深めていかなければなりません。研究の成果は毎月発行される日本家政学会誌に掲載されます。しかし、日本家政学会の特徴は生活の質の向上をめざして、各専門分野の成果を持ち寄り、それらを総合するところにあります。このことをどのようにして形に表せば良いでしょうか。総合するというのは言うは易く、行うは難しです。へたをすると議論が噛み合わないことになります。しかし、これこそが日本家政学会の特徴ですから、できるだけ議論を重ねるしかありません。
 会発足以来、私たちをとりまく社会の状況は大きく変化しました。科学技術は進歩し、1960年代からの高度経済成長を経て日本人の生活は豊かになり、それまではあこがれであった商品に手が届くようになりました。食生活もこの時代には理想的なパターンとなっていました。しかし、二十世紀の終わり頃からいろいろな問題が表面化してきました。環境問題、少子高齢社会、食料自給率の低下、飽食の中での生活習慣病の増加、景気の悪化、失業率の増加、家族の問題などなどが生活に影を落としはじめました。
 のような生活の質を脅かす問題は、一つの専門分野だけではカバーすることはできません。日本家政学会はこのような問題に対して、各専門分野の研究成果を総合するという特徴を生かす必要があります。
 れまでの縦割り行政では対応しきれなかったいろいろな問題に対処するため、2009年9月に消費者庁が発足しました。消費者庁の取り扱う範囲は、まるで家政学会がカバーする範囲のようです。現在の社会における問題に対して、日本家政学会の果たすべき役割は沢山あるはずです。しかし、まだまだ力及ばず、学会の中だけで議論しているだけでよいのかという考えが頭をよぎります。現実の日本家政学会は、目指しているように社会に役立っているのでしょうか。3,500人という会員の持っている知見や成果が、宝の持ち腐れになっているのではないでしょうか。
 れまで、年次大会では学会を総合するという目的に沿って、各分野のシンポジストによるシンポジウムや講演会を企画し、多くを公開にしています。各支部の行事も同様です。しかし、結局参加者の多くは家政学会員であって、なかなか一般の方に来ていただけません。いかに、会員以外の参加者を増やすかを考える必要があります。また、新たにサイエンスカフェを企画しました。少人数でも一般の方々に興味を持っていただきたいという趣旨です。
 らに、個人的には学会誌をうまく活用する方法を考えたいと思っています。
 (社)日本家政学会の発展のために、今後の課題の解決に向けて努力したいと思います。皆様のお力添えを、この場を借りてお願いいたします。