乳幼児期から、落ち着きがなく衝動的な行動が多い、集団行動ができない、指示が理解できないなどの行動特徴を示す子どもたちの状態に対して、発達障害という「医学的」診断がつけられるようになってきている。こうした「気になる子どもたち」は昔からいたが、かつては「しつけが悪い」「態度が悪い」「やる気がない」「変わり者」とみなされていた。 2003年に文部科学省が行った全国の通常学級を対象とした調査では、児童、生徒の6.3%に、注意欠陥多動性障害・高機能自閉症・学習障害などの発達障害の行動特徴をもっている子どもがいることが明らかになった。それ以来このような「気になる子どもたち」は特別支援教育の対象とみなされるようになっている。注意欠陥多動性障害・自閉症あるいは学習障害は、近年の脳機能画像や遺伝子検索などの医学的研究によって、多数の遺伝子によって規定される遺伝性の状態であり、様々な高次脳機能の障害による状態であることが明らかになってきている。また注意欠陥多動性障害などは、ドーパミンという神経伝達物質の機能亢進が、行動特徴に関係していることがわかってきた。 こうした発達障害を背景にもつ「気になる子どもたち」にどう対応していったらよいかという悩みを、多くの保育士や幼稚園教諭が抱えている。私は、現在保育士や幼稚園教諭の現職講座を担当しているが、悩みを解決するためには、発達障害についての科学的な知識を身につけることが必要であると考えている。そして、保育士や幼稚園教諭、あるいは小学校教諭は、きちんとした知識のもとに、注意欠陥多動性障害・高機能自閉症あるいは学習障害などの見立てができるようになるべきだと思っている。正しい見立てのもとにのみ、適切な対応ができると信じるからである。医学でいえば、正しい診断があって初めて適切な治療ができることと同じである。 発達障害が世に知られるようになった当初は、教育界からは、「レッテル貼り」あるいは「新たな障害をつくり出している」などと非難されたが、現在では教育界でも発達障害は受け入れられるようになってきている。 ところが、発達障害という診断を「レッテル貼り」「差別」と非難していた教育界において、特別支援教育の名のもとに、発達障害の行動特徴のある子どもたちを、通常学級から特別支援学級あるいは特別支援学校へ追いやる傾向が強まってきている。ここ数年の間に、全国の特別支援学級に在籍する児童生徒数が数十%増加していることもその証左である。また、発達障害の子どもたちをスクリーニングする目的で五歳児健診を実施する自治体も増加している。 かつて障害児教育の基本的な考え方として定着したインクルージョン(統合教育)が、特別支援教育の名のもとに、後戻りしている感さえある。 発達障害の理解の重要性を説いてきた理由は、保育士や幼稚園教諭そして通常学級教諭が、適切な知識のもとに、発達障害の子どもたちをほかの定型発達児童、生徒とともにみていくことが大切であるからである。 教室や講演会あるいは著書よって広めてきた発達障害の知識が、かえって発達障害の子どもたちを疎外するために使われていることを忸怩たる気持ちでみつめている。
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