建帛社だより 「つくし」

 平成29年9月1日号

学校における家庭科教育が果たしてきた役割と保育学習

千葉大学教授  伊藤 葉子

 本家庭科教育学会は創立から60年を迎えました。家庭科という科目は,戦後つくられた科目であり,1989年公示の学習指導要領から男女共学になりました。小・中・高で必修科目として,男女共修で,しかも非常に広い分野をカバーした内容の家庭科を学ぶことができます。
 行の学習指導要領では,中学校家庭科は「家族関係と保育」「食生活」「衣・住生活」「消費者教育と環境」の四領域ですが,2017年3月31日公示の次期学習指導要領では,「衣・食・住」が統合されて三領域になりました。
 れまで日本の家庭科が果たしてきた役割として,生活の基本的知識・スキルの獲得,関連分野への興味・関心を促進,生活(伝統)文化の継承,自立の支援・促進,男女共同社会の実現などがあげられます。
 だし,小学校の家庭科の授業時数は,1958年からは5年生・6年生ともに年間70時間ずつでしたが,1998年の改訂で5年生60時間,6年生55時間になりました。中学校では1958年では,女子だけが対象で,年間315時間あったのが,1998年に87.5時間に激減しました。高校では学校ごとに2単位(家庭基礎)か4単位(家庭総合)かを選ぶことができますが,現在は2単位の学校が圧倒的に多いのです。
 方,1989年の改訂から中学・高校の家庭科が男女共修になりました。それ以前は女子だけが必修で,男子はその時間は格技などの体育をやっていたのですが,今の学生たちに話すと「信じられない」ととても驚かれます。それほど昔のことではないのに,大きく変わってきているのです。
 学校家庭科の中には「家族関係と保育」の領域があります。高校では乳児も扱いますが,中学では1歳以下の子どもは難しいので扱いません。以前は,子どもの発達や生活が主な内容でしたが,それらの取り扱い方が難しくなりました。それは生き方まで強制することになりかねないからです。
 えば今は結婚しない人も多く,結婚しても不妊の人もいます。結婚して子どもがいる家庭を共通の目標として掲げることは難しいと考えます。義務教育の中で保育を学ぶのは,どの生徒も社会の一員として子どもを育てる世代,親世代になるために大切なことだからだと思います。
 庭科の保育学習の中には「幼児とのふれあい体験」を取り入れることがあります。その際に,どういうことに気をつけたらいいのかと,保育学の人たちと一緒に検討をしました。
 イントは,ふれあい体験ではどうしても行くほう(中学生)だけにメリットがあると中学校の先生たちも思いがちですし,受け入れる施設側は迷惑なだけと感じることが多いということです。確かに中学生の中には金髪にしているような子もいれば,興味がなさそうに突っ立っているだけの子もいます。でも,みんなその地域で育った子どもたちなのだから,目の前にいる子どもたちだけきちんとすればいいというような狭い考え方では地域は活性化していかないのではないか,みんなで育てていこうという考え方が重要なのではないかと思います。つまり,受け入れ側にとってもいいことであると思えるような互恵的な関係がないとやっていけなのです。
 っ立って見ているだけのような中学生でも,友だちが幼児と遊んでいるところを見て何かを学んでいます。義務教育ですべての子どもたちを連れて行くということにはそのような意味があると私は思うのです。
 本は環境教育が発達していますが,家庭科や技術のような生活に密着した教科で何かできないかと研究しています。例えば震災があったとき最初はやはり食料が必要でした。しかし長い目でみると,人は食べるものや着るものが満たされただけでは生きていけず,音楽やアートが必要であるし,さらに子どもたちは遊ばなければ生きていけません。持続可能な社会をつくっていくためには,家庭科を含めたすべての教科での研究が必要であると私は考えています。