はじめに

　日本では，がん，心疾患，脳血管疾患，糖尿病などの生活習慣病の発生率が増加しており，一次予防に重点を置いた対策が望まれている。また，少子高齢社会が進行する中で要介護者も年々増加しており，医療費も増加の一途にあり，国民経済に多大な影響をもたらしている。

　今日，人びとの食生活には食品および加工食品が多く出回り，調理する機会は減り，中食や外食利用者が多く，食情報も豊富であり，人によっては，嗜好を優先することによって，栄養過剰やバランスが崩れ，さらには生活構造の変化から身体活動の減少などにより健康障害に至ってしまう場合がある。

　このような国民の現状において，人びとのQOL（生活の質）の向上と健康寿命の延伸および健康的な社会を実現するために，「栄養教育・指導」の必要性が社会的要請として高まっており，管理栄養士・栄養士の社会的役割がますます重要なものになっている。

　国においては，国民健康づくり施策として現在「健康日本21（第2 次）」が2013年より開始されている。その他の施策内容等も加味し，示されている目的・目標を達成できるような栄養教育・指導活動を展開していくことが求められている。

　栄養教育・指導を行うにあたっては，個人や集団の問題点を正しくとらえ，さまざまな視点から検討し，原因を解明し，対象者にもっとも適した手法を利用して，よりよい方向に導くことが重要である。また指導する側の栄養士はより多くの知識や経験を必要とする。

　本書は，管理栄養士国家試験ガイドラインおよび日本栄養改善学会のモデルコアカリキュラムに準拠した内容構成とした。

　また，栄養教育・指導マネジメントサイクル（PDCA）に基づく流れを基本とし，事例などを盛り込み，実習をスムーズに進行できるよう心掛けた。

　「栄養教育（指導）実習」を学ぶにあたっては，栄養学をはじめとする基礎科目，応用科目としての臨床栄養学や公衆栄養学，栄養教育論などをマスターしたうえで，実践をとおして具体的な理論および方法を修得する。短期間で教科を履修しなければならないため，同時進行で学ぶ教科も往々にしてあり得るのが現実である。

　よって本書では限られた履修単位の中で，実習をとおして管理栄養士・栄養士に必要な理論と技術が修得できるよう考慮し，各章に演習を設け，課題を提起し，学習内容をよく把握できるようにした。

　今後，不備な点等をご指摘いただき，必要に応じて，その都度，改定補足をすることとしたい。

　本書の発刊に際して，参考にさせていただいた文献・資料などの執筆者，ならびに建帛社の方々に，心より御礼を申し上げる。

2016 年3 月

編著者　関口紀子