建帛社だより「土筆」

平成20年9月1日

鯨類資源の持続的利用をめざして

園田学園女子大学短期大学部教授  浜口 尚この著者の書いた書籍

 2005年度に日本の調査捕鯨頭数が1,200頭を超えた辺りから,「環境保護」団体による捕鯨妨害活動が過激度を増してきている。



 年(2008年)に入ってからは,ある団体が南氷洋で活動中の調査捕鯨母船に不法侵入を企て,同母船に薬物入り壜を投入するなど,傍若無人な活動を繰り広げている。



 た,日本国内においても別団体の構成員が調査捕鯨母船乗組員所有の鯨産物を宅配便の集配所から盗み出し,窃盗および不法侵入の容疑で逮捕,起訴されている。



 該団体の運動基本がメディアを利用した情報宣伝活動にある以上,活動を激化させねばならない宿命を帯びている。なぜならば,毎年同じ活動を繰り返していたならば,メディアにも大衆にも飽きられてしまい,支持基盤が広がらないからである。



 者は過去12年間,女子学生に捕鯨文化・鯨食文化を講じており,折に触れて鯨料理の食経験についてのアンケートをとっている。



 1996年,鯨料理を食べた経験のある学生は79%存在していたが,昨年2007年には31%にまで低下していた。小学校の給食メニューから鯨料理が消えて久しく,このような結果になったのかもしれない。



 かしながら,2003年の29%を底に少しずつではあるが,鯨料理の食経験も増え始めている。学生からスーパー店頭に鯨肉が並んでいたとか,居酒屋のメニューに鯨料理があったなどの話を最近よく聞く。確実に鯨産物の供給量は増えている。そのことに前述の団体が危機感を抱き,活動を激化させているのであろう。



 産物の供給が増え,価格が下がり,身近な存在になれば,消費は増える。現に,捕鯨の町・太地町のある和歌山県では小学校の給食メニューに鯨料理が復活しつつある。



 こで環境保護の立場から鯨肉について考えてみよう。



 肉を1キログラム生産するためには穀物飼料が11キログラム,豚肉では同7キログラム,鶏肉では同4キログラム必要といわれている。大豆,トウモロコシなどの穀物飼料は人間が食料として利用できるものである。随分無駄な資源利用である。しかも,餌用の穀物生産のために畑を切り開く必要もある。加えて,大量の水も不可欠である。



 方,鯨類は海で泳いでいる動物性プランクトン,オキアミ,魚などを勝手に食べる。畑を切り開く必要はないし,餌代も不要である。しかも,動物性プランクトン,オキアミを食べている限り,人間が食べないものを食べて,人間が食べる肉を生産してくれる。人間が食べる穀物飼料を大量に食べ,肉を少量生産する家畜とは大違いである。



 本近海に生息しているミンククジラなどはサンマ,イワシなどを大量に食べているので少々厄介である。このミンククジラを間引けば,ミンククジラ肉を食料として利用できるだけでなく,ミンククジラが捕食しているサンマ,イワシも人間に回ってくる。地球環境に負荷を与えない一石二鳥の食料増産法である。そういう話をすれば,学生は捕鯨が環境保護,資源の持続的利用に役立つということを理解してくれる。



 1世紀は資源の持続的利用の時代,新捕鯨の時代である。

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第89号平成20年9月1日