建帛社だより「土筆」

平成26年9月1日

国立健康・栄養研究所の歴史と研究

独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長  古野 純典この著者の書いた書籍

 成32年(2020年)に東京オリンピックが開催される。その年が国立健康・栄養研究所の設立100周年になる。大正9年(1920年)9月17日に内務省所管「栄養研究所」が設立された。初代所長の佐伯矩(さえき・ただす)博士は公衆衛生の中核的学問としての栄養学を提唱された。1980年代に国の健康政策に運動による健康増進が取り上げられるようになり,研究所は平成元年(1989年)に「国立健康・栄養研究所」に改称された。平成13年(2001年)に独立行政法人となり,研究所には国の健康政策に資する計画的研究が求められている。

 究部門には,栄養疫学,健康増進,臨床栄養,栄養教育,基礎栄養および食品保健機能の各部があり,加えて,情報センターと国際産学連携センターがある。

 養疫学研究部は国民健康・栄養調査と食事基準値策定にかかわる研究を行っている。国民健康・栄養調査の結果は『国民健康・栄養の現状』として出版されている。以前には欠乏症の回避を目的とした栄養所要量が策定されていたが,平成17年(2005年)からは生活習慣病予防と健康増進を目的とした「日本人の食事摂取基準」が策定されている。健康増進研究部では運動と栄養の併用効果を研究テーマとしてヒト研究を行っている。臨床栄養研究部は糖尿病の遺伝・環境要因および分子病態を研究している。栄養教育研究部は食育基本法(平成17年)と食育推進基本計画(平成18年)に対応した研究部である。基礎栄養研究部ではエネルギー・主要栄養素の代謝研究が行われている。「日本人の食事摂取基準2010年版」までは推定エネルギー必要量が示されていた。エネルギー必要量は基礎代謝量に身体活動レベル(通常PALと呼ばれる)を加味して推定される。二重標識水法で測定されるエネルギー消費量を基礎代謝量で除したものがPALである。二重標識水法はエネルギー消費量測定の国際標準である。本年(2014年)10月13日に「二重標識水法によるエネルギー代謝評価の基礎と応用」と題する国際ワークショップが研究所で開催される。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では従来の推定エネルギー必要量も参考値として表示されているが,理想的なBMIを達成・維持するために必要なエネルギーを算出することが提言されている。

 康食品に対する国民の関心が高まっている。食品成分の機能性と安全性の研究は食品保健機能研究部が担っている。情報センターでは健康食品の安全性・有効性情報をホームページで提供している。研究所は今年,栄養と身体活動のWHO協力センターに指定され,国際産学連携センターがその業務を担当している。10月26日には研究所一般公開を,来年(2015年)2月21日には一般公開セミナー(有楽町読売ホール)を予定している。

目 次

第100号平成26年9月1日

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