建帛社だより「土筆」

令和2年1月1日

福祉用具による支援技術の現状と将来展望

東洋大学 教授  繁成 剛この著者の書いた書籍

 祉用具による支援技術は心身に何らかの障害のある人が自立した生活を送るために様々な技術を活用する分野です。その範囲は広く,握りやすい把手付きスプーンから,目だけで操作できるコンピュータまで含みます。

 表的な福祉用具といえる車椅子は,軽量でコンパクトな製品が増えてきましたが,長時間快適に座るためのデザインにはなっていません。標準的な車椅子に座り続けると,姿勢が崩れやすく,褥瘡や拘縮の危険性が高まります。

 こで,利用者の身体的な特徴と使用する目的に合わせ,背もたれの形状・シート角度・ヘッドレストの位置調節が可能な車椅子,体圧分散と姿勢保持機能を有したクッションなどが開発され,その多くは公的給付または介護保険の対象であります。また,車椅子の介助を安全かつ容易に行えるように移乗・移動・姿勢変換などのしやすい車椅子も製品化されています。

 HOによるICFの「活動と参加」を実現するために移動は必須の要素です。移動を補助する代表的な用具として,車椅子や杖,歩行器があります。例えば歩行器では,転倒を予防するため自動的に安全な速度にコントロールするものや,登り坂をアシストし下りで自動的に減速する製品が販売されています。電動車椅子の場合,体のわずかな動きや視線などにより自由に操縦できる制御方法も開発され,近い将来は場所を限定すれば自動走行も可能になるでしょう。義肢装具の進歩も目覚しく,コンピュータ制御で路面の状況に応じて安全かつスムーズに歩行できる義足が開発されています。東京パラリンピックの開催によりスポーツ競技に特化したデザインの車椅子や義足の開発も加速し,認知度も高まってきました。

 年のコンピュータの普及と高性能化によって,重度障害者に対するコミュニケーション支援技術は大きな進歩を遂げました。

 20年前には設定が難しく高価だった音声認識や視線入力によるコンピュータ,環境制御装置の操作性は向上し,同時に安価になりました。AIやロボットなどに関する技術は今後も加速度的に進歩することは間違いなく,先端技術を応用した介護ロボットやコミュニケーション支援機器が次々と開発され,介護や臨床の場で活用されることが予想されます。

 かし,最新テクノロジーの進歩に対して人間の意識や使いこなすスキルは容易に対応できません。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄性筋萎縮症(SMA)のような難病患者に対しては,個人の残存機能で操作できるスイッチやソフトを選択し,適合する技術が必要ですが,その技能をもつ技術者は極めて少ないのが現状です。視覚障害や聴覚障害に対してはユニバーサルデザインの理念に基づく環境整備とサービスを充実させる必要があります。

 ハビリテーションや介護にかかわる専門職が,最新の支援技術・機器をユーザーの個々の状態とニーズに対応できる知識と技術を身につけることと,そのための教育体制を早急に構築する必要があるでしょう。


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第111号令和2年1月1日

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