建帛社だより「土筆」

令和3年9月1日

新型コロナウイルス問題への大学での対応

東京家政大学・東京家政大学短期大学部学長 井上俊哉この著者の書いた書籍

 昨年(令和2年)から続く新型コロナウイルスの感染拡大の問題に,全国の大学では様々な取り組みを講じてきたことと思います。筆者が学長を務める東京家政大学がどう対処してきたのか,その一例としてご報告させていただきます。

 昨年3月末の時点では,感染拡大防止に配慮しながら対面授業を行う方針でしたが,感染拡大が続き4月7日には緊急事態宣言が発令されました。当時は,新型コロナウイルスの脅威について今よりさらに不明のことが多く,いつ収束するのかまったく先が見えない状況でした。一時的な休講の案もありましたが,早期の収束を前提とした休講には慎重にならざるを得ず,また対面授業を行うか否かを地方在住の学生に伝えることも必要でした。本学では,同年2月に理事長を議長とする新型コロナウイルス対策本部会議を設置していましたので,4月に入り,すぐにこの会議において前期授業をオンラインで実施することを決定し,授業開始を1か月遅らせて準備期間としました。

 同時に在学生全員を対象にパソコンの保有状況,ネット環境を調査し,その結果を踏まえ,貸与用に600台のパソコンを購入。ネット環境整備等にも使ってもらうことを想定し,全学生に1人5万円を支給しました。また,有志により結成したオンライン授業実施チームが学内各部署と連携し,オンライン授業のための環境を整え,学生および教員向けのマニュアルとQ&A作成を行うとともに,外部業者の力を借りてサポート窓口も設置しました。

 このようにして,前期授業開始までにオンライン授業実施の準備を完了し,学生,教職員の努力と協力で昨年度を乗り切ることができました。

 さて,今年度はできるだけ多くの対面授業を実施することに努めつつ,学内の密回避のために,オンライン授業も併用しています。学内でリアルタイム双方向型のオンライン授業を受講できるスペースが十分に確保できないため,原則としてオンデマンド型とし,リアルタイム型は対面授業の受講がない日に限定して行うよう,学科内で調整しています。また,オンライン授業も2年目になるため,質の向上に努め,単に資料を提示するだけでなく,解説音声を必須として各教員にお願いしています。

 感染防止対策としては,昨年度後期以降,1日当たりの入構者数制限,入構者全員の体温検査,マスク着用,手指消毒の徹底,教室定員2分の1以下での授業実施,換気の励行,アクリル板等の設置など,安心して対面授業に参加してもらえる配慮をしています。また,体調不良時は休むよう学生,教職員に徹底し,休むことで不利にならない配慮もしています。

 しかし,市中感染者が増加していることからも,多少の陽性者や濃厚接触者は出てきています。今年度は対面授業を増やしているため,陽性者等が対面授業を受けていたことが後からわかるケースもあります。その際は,クラス担任,学科長,関連部署,保健センター等が密に連携し,学内での感染拡大を生じさせないよう,速やかな対応に努めています(学内の医師と相談し,学内で感染を広めないための基準づくり,感染対策を徹底しています)。

 オンライン授業については,昨年度の前期授業終了時点で,全学生,全教員対象にアンケートを実施。学生からは,課題の多さ,指示の不明確さ,対面できないことからの不安などの声があった一方,評価の高い授業も少なくありませんでした。

 対面授業が必要であることは間違いありません(今年度前期授業が始まり,学生たちが久しぶりに対面したときの嬉しそうな様子はとても印象的でした)。しかし,時と場所を選ばず繰り返し学習できるオンデマンド型授業,遠隔地にいる者同士が瞬時に集まれるリアルタイム型授業など,学生も教員もオンライン授業の可能性を,はからずも今般の感染症対応の中で知ることとなり,大学教育の一部にオンライン授業を組み込む計画も必要だと強く感じているところです。

目 次

第114号令和3年9月1日

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