建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

医療事務職が福祉を学ぶ必要性と意義

関西国際大学・滋慶医療科学大学兼任講師 出嶋陽介この著者の書いた書籍

 療事務職の業務は,近年の立法や新たな医療政策によって多様な広がりをみせている。それは,平成元年の「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」により,地域包括ケアシステムという医療と介護の連携体制の推進が規定され,さらに平成27年の「医療法」第七次改正において,医療機関相互の機能分担と業務の連携を推進する地域医療連携推進法人制度が創設されたことと関係している。加えて,「厚生労働大臣の定める医療法人が行うことができる社会福祉事業」(厚生省告示第十五号・平成10年2月9日)を参照すれば,障害者(児)支援施設,高齢者施設の経営など,本来,福祉施設・事業所が職分としていた事業を医療機関も担えるようになった。

 れは当然に,医療事務職の職域拡大と深く関連することになる。その関連とはいかなるものなのか,私見を2点述べてみたい。

 ず,その業務の拡大である。近年の医療業界においては,医療法人と地域包括ケア事業を行う法人が運営に参画した地域医療連携推進法人の設置が推進されたり,ひとつの医療法人の傘下に介護医療院やケアプランセンター,デイケア施設などが収まったりするなど,医療機関の運営の在り方が,従来の医療中心型から地域連携や介護事業との連携型ないし複合型へと変容しつつある。

 のような潮流のなかで,医療事務職は,従来型の範ちゅうにある医事業務に加えて,連携型・複合型に対応した地域連携業務や福祉事務にも従事することが求められる。

 えば,自院の患者を高齢者施設へ退院支援したり,反対に他院や他施設からの要支援者の受入に関する事務処理を行ったりするということである。また,介護保険や障害者福祉サービスに関する事務処理も含まれることになるだろう。

 うひとつは,福祉関連法規の理解である。先に述べたように,地域連携業務や福祉事務を的確に処理するためには,「介護保険法」など福祉立法の理解と実務的知識が必要とされる。

 療報酬請求業務に専門知識と技能が要求されるように,介護報酬請求業務においても,介護給付費請求書,(居宅介護支援)介護給付費明細書,給付管理票を国民健康保険団体連合会に提出しなければならないことから,請求業務に関して診療報酬とは別の知識が要求される。また,家庭の状況に応じた診療報酬請求事務(例えば,ひとり親家庭の医療費助成制度など)も通常の診療報酬請求業務と異なるため,当然に知るべきことは多くなる。

 まり,医療事務職は,医療法規や医事制度に関する知識のみならず,福祉立法や福祉制度の十分な理解に基づいて,業務を遂行することが時代の要請となっているのである。

 療事務職を志す者は,より広範な視野に立って,医療および福祉の包括的かつ体系的な学習が求められる次第である。

目 次

第115号令和4年1月1日

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