建帛社だより「土筆」

令和5年1月1日

見えにくさのある児童生徒と教育の環境

広島大学大学院准教授 氏間和仁この著者の書いた書籍

 は,カメラ眼という見る仕組みを手に入れ,それを発達させて繁栄してきた。カメラ眼は,球形の眼球とピント調節機能を備えている。この仕組みのおかげで,遠くのものから手元まで視距離に応じた連続的なピント合わせが可能となり,鮮明に外界のようすを視覚で捉えることができる。

 覚の特徴は,遠くの対象物の存在までも捉え,同時に,広範囲に情報を入手できることだ。そのため,私たちは幼少期から視覚を駆使して多角的に捉え,そこから学びながら様々な機能を発達させてきた。例えば,頭の上で「カーカー」と聞こえたとき,そこに視線を向けると,カラスが電線に止まっているようすを瞬時に入手できる。あるいは,テレビに映る体操の動きを見て,同じように手足を動かすこともできる。そのほかにも,ボールを投げたり箸を使う動作など,様々な状況も視覚を介して把握し,学んでいる。

 ころで,視覚に何らかの障害がある人の数は,日本眼科医会の発表では164万人である(平成19年現在)。このうち見えにくい状態の人は145万人である。当時の日本の人口1.28億人から,78人に1人が視覚に何らかの障害があることになる。印象として想像よりも多いことはないか。みなさんの学校に見えの困難がある子どもはそこまで多くは在籍していないように感じるのではないだろうか。

 和元年の視覚に障害のある小中学生の在籍状況は,特別支援学校約2,600人,特別支援学級約600人,通級指導教室利用者約200人であった。小中学生数は約960万人であるから,先の割合よりも随分少なく感じる。実は,視覚障害のある人の75%は60歳以上なのだ。この年齢層の偏りが特徴といえる。

 のようなことを書くと,学校で視覚に障害のある児童生徒に遭遇することは滅多にないと思われる方がいるだろう。

 校保健統計調査(令和2年)では,視力が0.7未満0.3以上の割合は小学生約11%,中学生約14%,高校生約13%であった。この割合は,日常的に眼鏡やコンタクトレンズで矯正をしていない児童生徒の裸眼視力を対象にしている。印象が変わったのではないだろうか。さらに,ある調査によると視力0.7未満0.3以上の場合,黒板からの距離が7メートルで,7.5平方センチメートルの文字を認識できる児童生徒は9割を下回る。つまり,黒板に書いた文字の認識に困る児童生徒が一定割合在籍していることを意味する。

 方で,これらの結果を考慮して学級経営,例えば座席の配置や板書時の文字の大きさなどの調整がなされるケースはどれほどあるのだろうか。今の学校教育は黒板や大画面テレビに視覚情報を示し,それを「カメラ眼」で捉えて共有し,学習を成立させるスタイルが中心だ。寺子屋時代の「口から耳へ」とは異なる。視覚を媒介して指導することを前提にするのであれば,クラスの児童生徒の視力に基づいた環境についてより深く考えていきたいものである。

目 次

第117号令和5年1月1日

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