建帛社だより「土筆」

令和5年1月1日

地域共生をめざした地域言語聴覚療法の発展

一般社団法人日本言語聴覚士協会常任理事 黒羽真美この著者の書いた書籍

 子高齢化の進展による人口構造の変化に対応するために社会保障制度の改革が行われ,保健・医療・介護・福祉など言語聴覚療法を提供する体制は変化している。

 域包括ケアシステムは,高齢者が住み慣れた地域で生活していくための支援体制である。そして,従来の医療施設に加え,訪問や通所リハビリテーションなど地域の中で在宅生活にかかわる言語聴覚療法の拡充が必要である。すでに,介護保険事業計画ではリハビリテーションの提供体制の構築が盛り込まれている。

 語聴覚士の国家試験合格者数は累計で3万8,000人を超えたが,いまだ充足したといえる状況にはない。

 介護保険サービスに従事する者は,常勤換算数で9,200人余りと,約4人に1人が介護にかかわる計算であるが,今後,さらに増えると予測されている。

 方,小児については,児童福祉法の改正に伴い児童発達支援センターが創設されて以来,増加の一途を辿っている。その事業所数は8,000を超え,利用する児童の数も13万人を超えている。

 うした社会的ニーズの高まりを背景に,介護や福祉サービスにおいて言語聴覚士の活用が広がり,小児から成人,高齢者まですべての世代に対応する地域言語聴覚療法の提供体制が構築されてきた。

 域言語聴覚療法は地域リハビリテーションの一端を担い,言語聴覚士の専門性を活かして,対象児・者とその家族がその人らしい生活を実現できるよう支援するものである。保健・医療・福祉・介護の垣根を越えて連携し,地域住民の理解や協力も必要となる。

 えば,ことばの発達を育むかかわりは家庭だけでなく,保育所等でも実践できるよう訪問指導を行う。退院後も安心して食事がとれるように,食事のつくり方や介助の方法を,家族やヘルパー等に伝えて実践できるように支援する。散歩に出る際に近所の人々の見守りの目があれば家族も安心である。地域言語聴覚療法は,対象児・者への直接的な支援だけでなく,かかわる人たちと連携しながら対象児・者が生活していく体制を整えることを含む。連携を重ね,相互理解が進むことは暮らしやすい社会への第一歩である。

 語聴覚士の専門であるコミュニケーションと食の支援は,人と人とのつながりや,ともに食する楽しみを誰もが享受できる地域に役立つものと考える。

 年,失語症者向け意思疎通支援事業がはじまり,地域住民が支援者となって失語症のある人の社会参加を支援する輪が広がっている。さらに言語聴覚士は,介護予防を目的とした講話や体操指導などを行う中で,コミュニケーションや食の大切さを伝えている。

 域は今,高齢者支援を中心とした地域包括ケアシステムを基盤に,地域共生社会の実現に向けて変わろうとしている。地域言語聴覚療法のフィールドは制度の縦割りを越え,ますます広がっていくであろう。言語聴覚士は地域言語聴覚療法の実践を通してさらに成長し,地域に貢献する専門職をめざしたい。


目 次

第117号令和5年1月1日

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