建帛社だより「土筆」

令和4年9月1日

食物摂取頻度調査票の有効活用術

麻布大学教授 石原淳子この著者の書いた書籍

物摂取頻度調査票(FFQ)は,アンケート形式の方法で,食品リストから過去1か月など一定期間に習慣的に摂取していたものをその頻度とともに回答します。マークシートなどを用いて機械によるデータ処理が可能なため,大規模調査に適しています。1980年代に開発され,多くの大規模疫学研究で活用されているおかげで,食と病気の関連に関する人類の知見が,ここ数十年で躍進したとされています。日本でも広く導入され,日本人の食生活に適応させたFFQが国内の栄養疫学のエビデンスに大いに貢献しました。多くの先人の英知の結晶であり,公衆衛生上の財産ともいえるものです。

て今般,建帛社より新たに発売された「FFQ NEXT」では,筆者も微力ながら監修の役目を務めました。FFQ NEXTは,現在,国立がん研究センターを中心に実施している次世代多目的コホート研究(JPHC―NEXT)の,食事の曝露評価を目的として用いたFFQをもとにつくられています。JPHC研究グループでは,早くからFFQによる摂取量推定妥当性研究に着手してきたため,エビデンスに裏づけられた科学性を必要とする国内の大規模疫学研究で幅広く採用されています。JPHC研究のみならず,これらすべての研究から創出された研究成果と,摂取量を比較できることが強みのひとつです。

FQ NEXTおよびFFQに関して,ぜひ知っておきたいポイントが4つあります。

 質問票の妥当性が担保されているのではない
 食事を包括的に把握できるFFQであっても,その時点で算出が可能な食品群や栄養素などのみに対して個々に推定の妥当性が検証される。当然,算出できていない栄養素の妥当性は保証されず,論文に妥当性について記載する際は「妥当性が検証されている質問票を用いた」ではなく,「質問票を用いて算出された〇〇(食品群や栄養素)摂取量推定の妥当性が検証されている」として,相関係数などを示す。

 妥当性が適応できる集団かどうか
 例えばJPHC―NEXT研究のFFQ妥当性研究対象は,国内五地域在住の40~74歳の男女240名。年齢が中高年に限られるため,摂取量推定が若年層に応用できるかどうかの妥当性は課題として残る。妥当性検証をした集団と摂取量などの特性の類似性をよく考慮し,活用可能か検討が必要である。

 絶対値の活用には限界がある
 頻度調査法はそもそも疫学研究の集団の中で摂取量の順位づけをし,健康アウトカムとの関連を調べるためのツールである。FFQNEXTでは実際の摂取量との差を多少なりとも埋めるため,FFQで推定された摂取量を補正しているが,絶対値として扱うことには慎重を要する。活用の目的をよく吟味し,適宜ほかの方法を選択することも,科学性の裏づけにおいては重要である。

 項目を変えたら妥当性も変わり得る
 頻度や食品項目をカスタマイズすると,頻度の分布などが変わってしまうため,妥当性を再検討する必要が生じる。変更する際は慎重な検討が必要である。

れらの留意点を栄養疫学の基礎知識としてもつことで,FFQのより有効的な活用に役立つことでしょう。

目 次

第116号令和4年9月1日

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