建帛社だより「土筆」

令和5年9月1日

アメリカでの食生活から思うこと

早稲田大学スポーツ科学学術院教授 田口素子この著者の書いた書籍

 メリカスポーツ医学会に参加し,先日帰国した。かつて一年間滞在した街にも寄り,あちこちのスーパーマーケットで買い物をして調理も堪能した。海外に行くと,いつもはあたり前だと思っている日本の食事や食品事情との比較ができて大変興味深い。

 とえば,牛肉は比較的脂肪が少なく,日本ではみたことがない大きな塊が安価で売られている。これを,ホロホロになるまで煮込んだり,オーブンで焼いたりするととてもおいしいのだが,ステーキやバーベキューだとかたくて歯ごたえがある。ひき肉は含まれる脂肪の割合が様々で,Lean(赤身)80%と90%がよくみられ,95%というものまである。牛乳やヨーグルトも無脂肪(0%)から1%,2%,3.5%程度の全乳まで,脂肪の含有量が異なるものが何種類も並んでいる。

 方で,ハンバーガーやサンドイッチには山盛りのフライドポテトがついてくる。1人前の量も日本人には多いのだが,アメリカ人はそれをたいらげた後にデザートを注文する。小さめのカップ1杯のコーヒーを注文したら,砂糖とミルクを4つずつ渡された。菓子やケーキ類は吐き出したくなるほど甘いものもある。

 本のスーパーで一般的に売られている砂糖の量は1キログラムだが,25ポンド(11.3キログラム)入りが普通に売られているのを初めてみたときは度肝を抜かれた。砂糖以外にも,料理や菓子にはバターや生クリームなどもたくさん使う。健康に気を使っているようにみえても,砂糖と脂肪の摂取過多から肥満者が多いことも納得できる。

 凍食品,缶詰や瓶詰食品が充実しているのは生活には便利である。パン,ピザ,スープ,パスタ,メインディッシュ,デザートなど,ありとあらゆるものが加工食品(processed food)として売られている。加工食品の量は日本が39%なのに対して,アメリカでは59%と多いそうだ。なかでも,添加物を加えて工業的な過程を経てつくられる超加工食品(ultra processed food:UPF)のひとつであるナゲット類や清涼飲料水はとても安い。しかし,最近の研究で動物性食品を含むUPFを食べ過ぎると腸内細菌叢を変化させ,がんの発症リスクを上昇させる一因となることが報告されている(Wang et al. 2022)。スポーツ選手が利用するスポーツフーズ(スポーツドリンクを含む)もまた,95%はUPFである。サプリメントは筋肥大に有利と考える選手も多いかもしれないが,アミノ酸と魚油の混合物とサーモンで比較すると,食後の筋たんぱく合成率に差は認められていない(Paulussen et al. 2023)。運動後の骨格筋たんぱく合成は,卵白だけよりも全卵の方が高く,非たんぱく質の食事因子がヒトの骨格筋における運動後のmRNA翻訳調節に影響を与えるためと考察されている(Sawan et al. 2018)。

 の時代だからこそ,日本にいるとき以上に食品選択に関して深く考えさせられた。UPFは人々の生活に便利さを提供するが,便利さと健康のバランスをうまくとりながら,私自身も指導対象チーム・選手の食事も,健康リスクの少ない食生活にしていきたいものである。


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第118号令和5年9月1日

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