建帛社だより「土筆」

令和5年9月1日

回復期リハ病棟の言語聴覚士に期待されること

医療法人社団輝生会船橋市立リハビリテーション病院副院長 髙野麻美この著者の書いた書籍

 復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟は,ADL(日常生活動作のこと。食事,入浴,着替え,排泄,移動など,日常生活を送るうえで必要な基本的な動作)の向上,寝たきり防止,在宅復帰を目的として2000年に開設され,集中的に十分なリハサービスを提供することで,ADLを改善し在宅復帰をめざす病棟である。

 復期リハ病棟では,障害をもったままでも住み慣れた場所でその人らしく生活を送ることができるようADL・IADL(手段的日常生活動作のこと。家事や買い物,電話対応など応用的な動作)の向上をめざして,多職種が連携して取り組むことが重要となる。そのなかで,言語聴覚士はどのような役割をしているのであろうか。

 語聴覚士は主にコミュニケーションや食事の支援を行っている。まず,コミュニケーションについては,言語機能や認知機能への機能訓練,伝達手段の検討,周囲の人へのアドバイスなど,意思伝達や自己表現の支援をしている。また,食事については,嚥下機能への直接訓練,食事形態や摂取方法の検討など,安全かつ実用的な食事ができるよう取り組んでいる。

 らに,認知機能についても積極的にかかわる。認知機能は思考や判断など,人が行動するために基盤となるもので,生活をしていくなかで重要となる。たとえば,認知機能が保たれている場合は,麻痺など身体機能に問題があっても代償手段を学習して動作を獲得していく可能性は高い。しかし,認知機能の低下がある場合は,危険リスクを回避して新たな動作を学習していくためには工夫が必要となる。このように,実用性を検討するうえでは認知機能の問題は重要なポイントとなっている。

 は,ADL・IADLが向上し在宅復帰をめざす回復期リハ病棟で言語聴覚士に期待される役割はどのようなことなのだろうか。

 にも述べた通り,身近な人とのコミュニケーションがとれるようになることや,安全に食事ができるようになることは不可欠な役割である。そのほかには,言語障害や認知機能の低下がある患者さんとのかかわり方を他職種に伝えていくことがあげられる。

 れらの問題がある患者さんは,リハやケアの場面で他者からの指示などが理解できず,適切に行動できないことも少なくない。そのような状況では,効果的なリハができず機能改善につながりにくいことや,ケアの場面でうまくできず拒否をしたり,スタッフが過介入することで実践での練習が積み重ねられない,など悪循環になることがある。そのため,認知機能改善を図るとともに,かかわるうえでの工夫のポイントをみつけだし,その人にとって理解しやすい声掛け方法の共有や,落ち着いて取り組める環境を提案することも大事な役割といえる。

 復期リハ病棟では,多職種が情報を共有して,一緒に取り組むことが基本となっている。言語聴覚士もその一員として,患者さんの生活を支えていく専門職であり続けたいと考える。


目 次

第118号令和5年9月1日

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