建帛社だより「土筆」

令和6年1月1日

栄養学の実践研究を担う人材の養成

特定非営利活動法人日本栄養改善学会理事長 名古屋学芸大学教授 塚原丘美この著者の書いた書籍

 病を予防し健康の維持・増進を図るため,あるいは重症化を予防するために栄養学は欠かすことができないものです。しかしながら,その栄養素を摂る食事のあり方やそのほかの補給方法に関する実践的な研究は少なく,栄養介入効果を示すエビデンスが発信されなければならないといわれ続けています。栄養管理(実務)の効果を科学的に明らかにするためには,栄養学の実践分野から確かな研究報告ができる人材を養成する必要があります。日本栄養改善学会(以下,本学会)は実践研究者の育成のために様々な取り組みを行っています。


 会の短期目標の筆頭に“若手会員の活性化”を掲げています。2021年より「将来構想ワーキンググループ“未来デザインチーム”」を立ちあげ,若手研究者の育成をめざし,若い学会員が中心となってこれからの学会のあり方を検討しています。学術総会には,管理栄養士・栄養士養成校の先生に連れられて比較的多くの学生が参加し,また多くの大学院生が研究発表を行っています。しかしながら,卒業後に栄養管理の実務に就くようになると,学会員を続けてもらえることが少なくなります。そこで,実践研究の重要性を理解してもらうために,学生会員と若手会員向けのPR動画を作成しました。栄養管理実務の中で研究活動を行っている様子とその実務者のインタビューから,実務をこなしながら研究者として学会に参加する将来像をイメージしてもらいます。


 た,学術総会では若手会員と学生会員の集いの場を設け,意見交換を行って若手会員のネットワークを広げていただいています。さらに,実践研究者の研究領域拡大のために,本学会ではあまり活動されていなかった分野の参加者に集まってもらう研究自由集会を開催しています。この取り組みにおいては,それぞれの新たな領域でネットワークを構築することで,実践栄養学の研究者が増え,ここから多くの研究者が参加する大規模研究に発展することと期待しています。


 021年12月に開催された「東京栄養サミット」において,日本栄養学学術連合が発表したコミットメントにある「栄養問題の二重負荷に対する日本の食事の有効性のエビデンスを提示する」「エビデンスに基づいた栄養改善を研究から実践につなげる人材を育成すること」を受けて,本学会誌である栄養学雑誌全八十巻から「日本の食事」に関する研究レビューを作成することとしました。その作成ワーキンググループを若手会員で構成しました。膨大なデータをまとめる大変な作業なため,メンバーのひとつの業績としてもらい,将来は栄養学研究の中心的役割を担う研究者になっていただけることを望んでいます。また,IUNS(国際栄養科学連合)リーダーシップ育成国際ワークショップを共同主催者として開催しています。各国から若手研究者が集い,本学会からも若手研究者が参加しています。これを機会にネットワークを広げ,国際的な視野をもつ栄養学の研究者になっていただきたいです。


 らに,本学会では,実践栄養学の研究者育成のために「実践栄養学研究セミナー」を支部会単位で開催しています。実務者が研究をスタートし,学術総会での研究発表や研究論文の投稿を目的に,研究倫理の教育,研究計画の考え方,データ解析,研究発表や論文作成に向けたまとめ方などの継続的な研修会を行っています。このセミナーは,実務者と研究者がつながる場でもあり,実践栄養学の研究者の育成に非常に意味があると考えています。


 生労働省からの委託を受け,2018年度に本学会において,「管理栄養士・栄養士養成のための栄養学教育モデル・コア・カリキュラム」を作成しました。このカリキュラムは,単に国家試験合格をめざすためのものではなく,管理栄養士・栄養士のめざす姿に到達するために必要なコアの部分を示してあります。栄養学の知識以外にも,専門職としての誇り,将来を見据えた到達目標ともつべき能力なども教育できる,人材養成を視野にいれて学んでいただきたいと考えています。


 れらの学会活動を継続することで実践栄養学のエビデンスが増え,本学会の長期目標に掲げる「実践栄養学の学術としての確立」につながることを願っています。

目 次

第119号令和6年1月1日

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