建帛社だより「土筆」

令和6年1月1日

特定分野に特異な才能のある子どもと特別支援教育

愛媛大学教授 中野広輔この著者の書いた書籍

 「才能児」や「ギフテッド」という言葉を聞くと,どのような子どもを思い浮かべるだろうか? 特定の分野にきわめて秀でた能力を有する,知能指数(IQ)がずば抜けて高い,など「秀才」を超えた「天才」のようなイメージではないだろうか。


 フテッドという語は,その才能が「ギフト」すなわち「贈り物」であるという考え方に由来している。では,誰から贈られたのかというと,欧米圏では「神から与えられた才能」ということになる。日本語の天才も「天から与えられた才能」を意味しており,ギフテッドや天才とは,特別な教育なく,生まれながらにして類まれな才能がある状態といえる。しかし,才能児やギフテッドには明確な定義はなく,安易にそのようなよび方をすることによる誤解や先入観には十分注意する必要がある。


 能児やギフテッド,天才の印象として,前述のような,類まれな才能と同時に内面的な不安定感や適応の難しさを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。事実,著名な偉人のエピソードの中には同世代の子どもたちや標準的な教育制度になじみにくかったという話もある。才能児がこのような不適応感を抱きやすい場合,㈠才能がずば抜けているため同世代の友達や学年相応の学習に適応できない,㈡才能と同時に併存する特性のために不適応が生じやすい,という二点が要因となっている可能性がある。特別な教育がなく明らかになった才能児とはいえ,単純にその後も特別な教育は要らないとはならないようだ。

 022年9月,文部科学省は「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」における審議のまとめを公表した。その中で,わが国の学校教育制度では特異な才能を見出し,伸長を図るシステムが整備途上であり,多様な特性・才能に個別最適化した学びが実現できる環境を整える重要性を指摘している。


 体的には,教師一人ひとりや管理職・教育行政の理解,多様な学習の場やICT(情報通信技術)の利用,学校外リソースの活用や学校との連携をあげており,特別支援教育の目的・方法に一致している。


 らに,特異な才能がありながらも個人内認知特性の偏りや,過敏性も有することに起因する適応困難の可能性に言及しており,適切なアセスメントツールの活用や専門性を有する教職員のかかわりが有効であった事例を報告している。これは,まさに特別支援教育そのものといえる。


 年,発達障害と特異な才能が併存する「2E(twice exceptional:二重に特殊な)児」という概念が注目されている。一人ひとりの多様な才能や認知特性を理解し,安心して学べるように取り組んだ事例を蓄積しながら実証研究を進めていくことが,個人のためだけではなく,共生社会を実現していくためにも大切なことではないだろうか。

目 次

第119号令和6年1月1日

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