建帛社だより「土筆」

令和6年1月1日

技術革新と出版の未来(社長年頭の辞)


あけましておめでとうございます

本年も宜しくお願い申し上げます


 年は2020年から続いたコロナ禍が,感染症法上の分類で五類に引き下げられ,社会活動が再開され,学術集会も対面開催する学会が多くなりました。参加されている先生方の活気あふれる議論や久しぶりの再会を喜ぶ声が印象的でした。当社も学校訪問を再開させていただき,「建帛社さんに相談したい書籍企画があったから会いたかった」とお声がけいただく機会があり,人と人とが顔を合わせて意見を交換することの必要性を再認識しました。これからも先生方のお声に耳を傾け,良書を刊行していくよう気持ち新たに邁進してまいります。

 社では昨年,新刊16点,改訂版12点を発行。本年3月には「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が発表される予定です。昨年より厚生労働省内に策定検討会が設置され,順調に議論を重ねていると聞いています。管理栄養士・栄養士養成校の先生方,現場の実践者の方々には,大きな変化の訪れとなります。当社書籍や栄養計算ソフトも見直しが必要となります。関係のご執筆先生方にはご助力をいただきたく,お願い申し上げます。

 年は生成AIを無料で利用できる「ChatGPT」が注目を集めました。2022年11月に公開されて以降,ユーザ数は全世界で1億人を超え,その精度はさらに向上,進化しています。利便性が注目される一方で,昨年8月に日本書籍出版協会,日本雑誌協会,日本新聞協会,日本写真著作権協会が共同で「生成AIに関する共同声明」を公表しました。その中で「偽情報の拡散や個人情報の漏洩を招く恐れがあるほか,著作権者の権利が侵害されるリスクが強く懸念」されることを提言し,技術の進歩に合わせた著作権者の権利保護を検討する必要性を訴えています。また海外では,昨年1月の時点でChatGPTを共著者として記載した研究論文が少なくとも4件あり,研究者・編集者の間で議論がなされました。その後「Nature」「Science」誌では投稿案内に,文章生成AIが研究論文の著者としてクレジットされることは認めない,と追記しています。

 も試しにChatGPTを体験すると,適当に投げかけた質問でもスムーズに応答し驚かされました。ただ,これはインターネット上に過去に積み上げられたデータをつなぎ合わせたものであり,そこに存在しない書物や経験的情報,感情などは反映されません。特に学術研究の分野では,実験・実証,実践を積み重ね,その結果を考察して新しいものを生み出すことにより進歩するため,最前線で研鑽を積んでいる研究者,実践者以外に領域の発展は成しえないと信じてやみません。

 後にChatGPTに書籍の未来について質問してみました。「紙の書籍は特定の分野や需要において重要性を保ちつつ,デジタルメディアと協調して新しい読書体験を提供することが期待されます。」と回答がありました。当社の関連する学術図書分野はまさに「特定の分野」にあたるかと思います。紙の書籍の重要性を認識し確かな内容を編纂していくことは変わらず大事にしつつ,デジタルメディアを活用した書籍との融合を試みることで新たな可能性を模索し,分野の発展に寄与してまいりたいと思っております。

目 次

第119号令和6年1月1日

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