建帛社だより「土筆」

令和6年1月1日

実習と大学での学びの往還

東京家政大学准教授 榎本眞実この著者の書いた書籍

 育者養成課程の科目,領域「人間関係」の授業で「実習で子ども同士,子どもと実習生がつながった場面はあった?」と聞いてみる。抽象的な問いゆえに,様々なエピソードが紹介される。A児が慎重に薄い積み木を積んでいると「いれて」もいわずにB児が手伝いはじめ,友達とかかわることが少ないA児もその状況を受け入れている。取り合いの末に遊具を手にしたC児が,取られて泣いているD児の様子を見て,その遊具をD児の側に置きにくる様子など,子どもが織り成す一瞬を心にとどめて大学に戻ってきていることがわかる。そして,「どうしてつながったのか」という問いを重ねる。子どもが自らつながる姿から保育において大切にしたいことや計画,環境構成など援助の手がかりを学生自身に見いだしてほしいからである。


 とえば,次は1歳児2月のエピソードである。
 児は11月に入園以来,給食をあまり食べず,大きい声で泣くこともあった。子どもたちもE児の様子を気にしている様子だった。ある日,給食がうどんだった際にはじめて自ら全部食べることができた。その様子に気づいたF児が私に「Eちゃん見て!ほめてあげて」という。私が「食べられたね。すごいね。嬉しいね!」と声をかけると,E児もF児も嬉しそうに微笑んだ。


 生たちは,1歳児が自ら「つながる」不思議さを感じる。「自分を見てほしい思いが強いのにどうして友達のこと?」「自分でほめればいいのに」「E児は認められて嬉しいけれど,F児も微笑むって何?」など,学生が自ら問いをたてる様子は頼もしくさえある。そして,「困っている状況ってつながりやすい」「嬉しくても!」「保育者がE児を受けとめているからだよね」などその理由を考えはじめ,次第にエピソードにはない保育者の日々の援助に気がつく。実習したからこそ,子どもや保育者の姿がイメージでき,実習後の大学での学びと結びつくのだ。


 生はひとつの実習を終えると成長する。しかし,その経験や学びを大学においてていねいに意識化すること,子どもの行為や保育者の援助の意味を付与することが必要となる。この理論との融合は従来からいわれているが,さらに2点を整理したい。まず,様々な授業において専門的な視点で融合することが重要だろう。そのことで実習での経験が広い視点で学びとして定着するからである。そのうえで,実習と大学での学びが往還することである。


 学では在学中に五回の実習(教育実習2回,保育実習3回)がある。融合だけにとどまらない学びの往還が生成すると,大学で学んで実習に行き,実習から学びや課題を明らかにし,再び実習を振り返ったり,次の実習でそのことをさらに学んだり…と学生自身が手応えを感じる。成長は確実になるだろう。


 育業界をめぐる状況は複雑さや深刻さを増している。しかし,夢を叶えようとする学生,仕事に社会的な意味を見いだし貢献したいと語る学生が傍らにいる。一人ひとりが確実に学びを積み重ねて社会に飛び立てるよう今後も力を尽くしていきたい。

目 次

第119号令和6年1月1日

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