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2021/06/30 法律・統計

【Web版「土筆」特別寄稿】日本食品標準成分表2020年(八訂)」におけるエネルギーに関する留意点

文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会主査代理として「日本食品標準成分表」の策定に携わられ,現在は学校法人食糧学院東京栄養食糧専門学校の校長を務めていらっしゃいます渡邊智子先生に,「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」におけるエネルギー計算等に関わる留意点について,Web版「土筆」として特別にご寄稿いただきました。本ページにて先行公開いたします。



日本食品標準成分表2020年(八訂)におけるエネルギーに関する留意点

学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長 渡邊智子


食品成分表と改訂

 「日本食品標準成分表」(以下,成分表)は,日本人にとって食べ物を評価する基準として「物差し(秤)」の役割をしています。成分表では,時代の変遷に伴い常用する食品である収載食品の増加や細分化などが行われてきました(常用する食品が変更される場合もあります*)。また,エネルギーや収載成分は,科学の進歩に伴い分析方法,換算係数の変更および効力値の計算方法などが見直されて,その時点の確からしい値の収載が行われてきました。

 つまり,最新の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下,成分表2020)では,現時点における日本人の「常用している食品」の「標準値」を収載していると言えます。

例えば,成分表2020では,これまでの成分表で収載されていたクロワッサンは「リッチタイプ」とされ,新たに「レギュラータイプ」の名称のクロワッサンが収載されました)


「成分表2020」の概要

 「成分表2020」は,2020年12月に文部科学省のWebサイトに4分冊(日本食品標準成分表2020年版(八訂),同アミノ酸成分表編,同脂肪酸成分表編,同炭水化物成分表編)および正誤表が掲載されています。また,冊子版も2021年2月に刊行されています。各成分表ともに,食品成分データ(いわゆる成分表)に加え解説(第1章および第3章)が充実しています。よく読めば,食品成分表の食品名や数値を見て疑問に思うことが解決できる場合がありますので,活用しましょう。


「成分表2020」の改訂のポイント

 「成分表2020」の改訂のポイントは,①調理済み食品の情報の充実,②エネルギー計算方法の変更,③組成成分表の充実,④「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(以下,成分表2015)の追補成分表(2016~2019)の反映(収載食品数の増加,既収載の菓子類,加工食品の収載値に原材料的食品の成分値の変更を反映,成分の追加;ナイアシン当量と難消化性オリゴ糖等を含む食物繊維),⑤解説の充実(食品群別留意点,調理に関する解説など),⑥表頭項目の変更です。特に,エネルギー計算方法の変更は,各食品のエネルギー量に大きな変化を及ぼしています。


「成分表2020」のエネルギー量の計算方法

 食品成分表のエネルギー量は,

エネルギー産生成分量(100g当たり)×エネルギー換算係数


を各エネルギー産生成分別に計算し,それを合計した値です。主要なエネルギー産生成分は,エネルギー産生栄養素とも呼ばれる,たんぱく質,脂質,炭水化物です。

 「成分表2020」では,それ以前の成分表とは異なり,エネルギーの計算に用いる主要な成分である「エネルギー産生栄養素(たんぱく質,脂質,炭水化物)」および「エネルギー換算係数」の2つをともに変更しています。


エネルギー計算を行うための成分

 図1に「成分表2020」表頭のエネルギーとエネルギーに関する成分を抜粋しました。青の★()は,成分表2020の新しいエネルギー値とその計算のための成分,黄色の★()は「成分表2015」のエネルギー計算のための成分,緑の★()は,2つのエネルギー計算で共通して使う成分です。成分表2020と成分表2015のエネルギー値の比較は,成分表2020第3章に収載されています。

 「成分表2020」の,エネルギー計算に用いる「エネルギー産生栄養素(たんぱく質,脂質,炭水化物)」は,組成成分表の分析値に基づく確からしい値(摂取量に近い値)です。この値をエネルギー量の計算に用いると,これまでのエネルギー量よりも確からしいエネルギー量が計算できます。



「成分表2020」のエネルギー量のエネルギー換算係数

 「成分表2020」のエネルギー換算係数の一覧表から,糖アルコールおよび有機酸を除いたものを表1に示しました。

 「成分表2020」のエネルギー換算係数は,「成分表2015」とは異なり全食品で統一した係数(FAO/INFOODSの係数)を用いています。また,kJ用の換算係数とkcal用換算係数を別々に用いています。



「成分表2020のエネルギー値」の留意点

1.「成分表2015」のエネルギー値との相違

 上述したように「成分表2020」のエネルギー値は,これまでの成分表と異なるエネルギー産生栄養素としての「成分」と「エネルギー換算係数」を用いて計算した値です。この計算で算出したエネルギー値は,「成分表2015」の方法で計算したエネルギー値よりも,平均で9%程度少ない値です(海藻類やきのこ類など増加した食品もあります)。そのため,成分表2020を使ってこれまで提供していた食事のエネルギー量を再計算すると,成分表2015の計算方法によるエネルギー量による計算結果よりも低くなることがわかっています(国民健康・栄養調査結果(摂取量)を用いた計算では約8%)。

2.エネルギー産生栄養素が未収載「-」の食品のエネルギー計算方法

 「成分表2020」のエネルギー値の計算は,アミノ酸組成によるたんぱく質,脂肪酸のトリアシルグリセロール当量,利用可能炭水化物(単糖当量)が未収載の食品は,「成分表2015」のエネルギー計算のための成分を選択しています。これは,成分表2015のエネルギー計算のための成分を,成分表2020のエネルギーのための成分の推定値としたと言えます。

 一方,「成分表2020」のエネルギー計算では,利用可能炭水化物(単糖当量)を優先していますが,成分値の確からしさを評価した結果NGの場合は,利用可能炭水化物(単糖当量)の収載値を用いず,差引き法による利用可能炭水化物を用いています。どの値をエネルギー計算に用いたかは,成分表2020をみると,使った成分に*が記載されています。


「成分表2020」のエネルギーとエネルギーに関する成分を栄養価計算に使うための工夫

 上述したように成分表2020では,組成から計算したエネルギー産生栄養素に欠損値があり,「日本人の食事摂取基準(2020年版)」と比較するには,成分項目が不足しています。そこで,飽和脂肪酸,n-6系脂肪酸,n-3系脂肪酸を脂肪酸成分表からもってくるといったような,不足項目を補う工夫(編集)を行った成分表や栄養計算ソフトがあると便利です**

**編集部注:現在開発中の新栄養計算ソフト「栄養プラス」では,本稿で提案されている表頭項目・栄養素項目列の編集に対応しております。詳しくはこちら

 図2に,上述した工夫を行った表頭を示しました。「成分表2020」のエネルギーとそれに対応するエネルギー産生成分を赤字で,「成分表2015」のエネルギー計算方法で算出したエネルギーとそれに対応するエネルギー産生成分を青字で,共通して利用するエネルギー産生成分は緑字で示しました。なお,各食品の各成分値は,上述した通りに追加して収載し欠損値を補います。


 この表を使って栄養計算すると,1回の計算で「成分表2020」のエネルギー計算方法の値(エネルギーとエネルギー産生成分),「成分表2015」のエネルギー計算方法の値(エネルギーとエネルギー産生成分)を,同時に計算できます。そのため,必要に応じてどちらかを選択でき,両者の相違も検討できます。


「成分表2020」を使った場合のエネルギー産生栄養素バランス

 エネルギー産生栄養素比率の計算は,まず,たんぱく質と脂質について計算しましょう。「成分表2020」のエネルギー値であれば,図2の赤字の成分を,「成分表2015」のエネルギー計算方法の値であれば,図2の青字の成分を使います。

 炭水化物は,「成分表2015」および「成分表2020」でも,たんぱく質や脂質と比べ,精度が低い(「成分表2015」は,差し引き,「成分表2020」は,組成分析の食品数が少ない,さらにエネルギー計算に利用されていない場合もあるなど)ので,その値を用いず,引き算により計算することをお勧めします(有機酸やアルコールも入ってしまいますが)。

 例えば,「成分表2020」のエネルギー値を使う場合は以下の式になります。

炭水化物エネルギー比率(%)=100(%) - (★アミノ酸組成によるたんぱく質エネルギー比率(%) + 脂肪酸のトリアシルグルセロール当量エネルギー比率(%))


 栄養価計算ソフトでは,エネルギー産生栄養素比率の結果も示すように策定されていると,ユーザには便利です***。 

***編集部注:現在開発中の新栄養計算ソフト「栄養プラス」では,本稿で提案されている通り,「成分表2020」のエネルギー値に合わせてのエネルギー産生栄養素比率の計算・表示が可能です。詳しくはこちら


最後に

 これまで食べていた同じ食事を「成分表2020」でエネルギー量を計算すると,「成分表2015」で計算した値よりも,小さい値になる場合がほとんどと考えられます。もちろん,同じ食事であれば,おいしさ等の外観,味,重さは,成分表が変わっても同じです。

 これは,食事を評価する基準(物差し)が,これまで以上に確からしい最新の物差しに変わったためです。

 これからは,外食や中食,栄養成分表示を見る場合は,「成分表2015」なのか「成分表2020」なのか,成分表2020の場合でも,どちらのエネルギー値を用いたのかを確認してみてはいかがでしょうか。なお,成分表2020での計算であれば,何の記載もなければ,新しいエネルギーでの計算と考えられます。また,栄養表示では,栄養計算結果を示す場合は,根拠として成分表の正式名称を記載する必要があります。

 「成分表2020」のエネルギーの変更は,栄養士・管理栄養士だけでなく食に関わる職種に周知し共通理解しておく大切なことです。また,栄養士・管理栄養士養成施設の全教員の共通理解と学生への教育だけでなく,食に関わる全ての職種の養成施設での教育も必要であると思います。


[参考資料]

1)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編:日本食品標準成分表2020年版(八訂),2020.http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/index.htm

2)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会:日本食品標準成分表2015年版(七訂),2015.http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/index.htm

3)「日本人の食事摂取基準」策定検討会:日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書,2019.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html

4)松本万里,渡邊智子,松本信二,安井明美:食品のエネルギー値の算出方法についての検討:組成に基づく方法と従来法との比較,日本栄養・食糧学会誌,73巻6号,255-264,2020.

5)「日本食品標準成分表の改訂に伴う実践栄養業務ならびに栄養学研究等に及ぼす影響と当面の対応に関する見解」,日本栄養改善学会および日本給食経営管理学会HP,2021.
http://jsnd.jp/

6)連載『日本食品標準成分表』の活用でもっと深まる食品と調理のキソ知識,月刊「臨床栄養」2020年2-6月号

7)連載:『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』のポイント,日本栄養士会雑誌2021-4-6月号

8)女子栄養大学出版部WEBマガ連載【8】~【17】,2020-2021.

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