令和2年9月1日
稲作大国新潟から発信する「米の意識改革」
新潟県立大学教授 曽根英行この著者の書いた書籍
中国湖北省武漢市より発生した新型コロナウイルスによる感染は,瞬く間に世界中へと拡大し,日本経済にも深い爪痕を残している。その影響は,観光・外食産業をはじめ製造業,金融業,医療,教育,サービス業など多岐にわたり,特に海外依存度の高い業種での被害の大きさが見て取れる。
一方で,他業種からのあおりを受け少なからず損害を被った農林水産業ではあるが,とりわけ海外への依存度が低く,減少傾向にあるものの,一定水準の国内需要が見込まれる稲作農業については,著しく深刻な状況は回避できたといえる。その証拠に,本学が位置する新潟市の東端では穂を垂れた稲が一面に広がり,例年と変わらない収穫の訪れを感じさせている。
しかし,稲作農業の現状に目を向ければ,若者の米離れや農業就業者の高齢化など,その行く末を思案せずにはいられない。本学で実施した米の嗜好性と摂取頻度の調査結果をみると,近年の学生は小麦製品を好む傾向にあり,摂取量は急激ではないものの減少曲線をたどっている。如何にすればこの状況を反転し,米の消費拡大につなげることができるのか。
筆者が教える健康栄養学科の学生に関していえば,米の摂取頻度は専門知識の定着と相関しており,学年の上昇とともに増加する傾向を示す。これは,米の栄養学的役割や科学的根拠に裏づけられた炊飯方法,米の生体調節機能などの専門知識を修得し,米に対する意識の変革がなされたからと考察する。つまり,現在の若者の米に対する姿勢を転換するためには,まずは米に関する正しい知識や稲作の実際を体験するなど,米に対する知的好奇心を喚起し,意識改革を促すことが肝要と考える。
我が身を振り返ってみれば,今日に至るまで米以上に好んで食した穀物はない。しかし,一貫して粘り気の強い米が好きだったかといえば,30歳代までは硬い食感の米が好みであった。米の嗜好性は千差万別で,生活環境や年齢によっても変化する。そのため,その折節で個々の嗜好に合致した米を見いだすことが重要となり,そうした発見も若者の探求心を刺激し,米好きへの変容を促す契機になると推察する。
稲作大国である新潟はまさに米の宝庫である。代表格であるコシヒカリは県内各地で生産され,産地ごとの異なる特徴を楽しむことができる。経済的に潤沢とはいえない若者が品種や生産地の違いによる食味の変化を体験する機会を創出するべく,米への関心が高まる新米の時期に特徴の異なる品種や銘柄を梱包した利き米セットを提供しては如何であろうか。世界屈指の生産地を抱える新潟県が低価格での提供を実現すれば全国規模で大きな注目を集め,その効果は世代を超えて若者にも波及するものと考える。
食の専門家を目指す本学科の学生には,そうした機会を積極的に利用して多くの品種銘柄を体験し,それぞれの特徴を活かした米の新たな活用分野を開拓することで,世界に誇る新潟の稲作農業の発展に貢献できるようこれからの成長を期待するものである。
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