令和5年1月1日
保育施設における子どもによるICT活用
宮城教育大学准教授 飯島典子この著者の書いた書籍
学校教育現場では,GIGAスクール構想(文部科学省,2019)の実現に向け,児童生徒がICT(information and communication technology:情報通信技術)を日常的に活用するよう教育改革が進められている。一方,保育施設で子どもがICTを活用することは,直接的体験(アナログ)とICT(デジタル)の二項対立で捉えられる場合もあり,否定的意見も少なくない。その背景には,子どものICTの使用が学校よりも家庭が先行し,ゲームなどに多く使う一方で学びには使われていない傾向にあることも関係しているだろう。
2017年に告示された保育所保育指針,幼稚園教育要領,幼保連携型認定こども園教育・保育要領には「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が共通して示された。例えば「数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚」では,幼児期の終わりには遊びや生活の中で,数量や図形,標識や文字などに親しむ体験を通して,それらの役割に気づき,自らの必要感に基づいて活用する姿が見られるようになることが記されている。この体験にICTが加わることで,学びの道具としてICTを活用する基礎を培うことができるだろう。むしろ,直接体験とICTそれぞれのよさを取り入れることで,直接体験が深化し,直接体験だけではできなかった遊びが創造され,これまで以上に充実した保育になる期待は大きい。
本学附属幼稚園の保育実践では,子どもの思いをくみ取り遊びが充実するように取り組んだときほど,ICTの必要性が生じ,積極的に取り入れ,その価値が明確になった。例えば「ジオラマづくり」(写真)では,子どもが園庭の築山に生息している虫や草花について図鑑やタブレットで調べ,写真を貼った観察記録をつくることから,築山そのものへと興味が発展した。「築山探検隊」と名づけられたチームがヘルメットを被り,協力して築山の高さや距離を測定し,虫が生息する場所を記録した。それらの記録をタブレットに残して参照しながらジオラマを完成させ,ジオラマと作成過程のドキュメンテーションを展示することで,築山のよさを仲間に伝えた。
写真や動画を撮る遊びで気づいたことは,「お友達を撮るときは,撮ってもよいか聞いてからにする」というルールを事前に子どもと話すことの大切さだ。遊びの仲間入りや物の貸し借りのルール,交通ルールは,遵守することで遊びが楽しくなったり,安全に過ごせたりする。このことを発達段階に応じて子どもが理解し実行できるよう育んでいく。ICTが日常的になればなるほど情報モラルの大切さをきちんと伝えることが重要になる。ICTの便利さだけに注目せず,同時に他者を大切に思う心を育てることが,保育施設での子どもによるICT活用の基本であると感じている。
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