令和5年9月1日
保育者のやりがいにつながる保育評価を
九州産業大学教授 清水陽子この著者の書いた書籍
近年,子育て家庭が増加している福岡市東区において,4年制の保育者養成を望む地域のニーズを背景に,2018年に九州産業大学の子ども教育学科開設に携わった。その当時と比較し,ここ数年保育者を取り巻く状況は,めざましく変容してきたことを感じる。
それは,保育所での事故や虐待事件のニュースが増えたことである。記憶に新しいのは今年5月13日の朝日新聞において「不適切な保育914件,認可保育所へ国が初調査」という第1面に掲載された記事である。腑に落ちないのは,「不適切な保育の定義は曖昧」であり,実態把握が難しいため,こども家庭庁の職員が「調査の設計の限界」と述べていることである。
日を同じくして,一般社団法人日本保育学会第76回大会が熊本学園大学にてオンラインで開催された。日本保育学会は,約6,000人の会員から組織され,全国の研究者だけでなく保育・幼児教育の実践者がともに,保育研究と実践の向上のために切磋琢磨している学会である。
初代会長は,「日本のフレーベル」といわれた倉橋惣三氏である。倉橋氏は,子どもと保育者に温かい眼差しを注いだ児童心理学者で,東京女子高等師範学校附属幼稚園の園長でもあった。その体験を基に綴られた,著書『育ての心』(フレーベル館発行)にある「小さき太陽」を紹介したい。
「小さき太陽」
「よろこびの人は,子どもらのための小さき太陽である。明るさをわかち,温かみを伝え,生命を力づけ,生長を育てる。見よ,その傍らに立つ子どもらの顔の,ききとして輝き映ゆるを。なごやかなる生の幸福感を受け充ち溢れているを。」
倉橋氏は保育者を「よろこびの人」であり,子どもたちを育てる「小さき太陽」と表現している。かつて,保育所や幼稚園の先生は,将来なりたい職業のベスト3に入っていた。しかし,現在はどうだろうか。社会一般の人は保育者を「子どもらのための小さき太陽」としてみているだろうか。
2017年に,「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の改訂(改定)が実施され,幼保共通のカリキュラムによる教育の質の向上が企図された。
となりの韓国でも,国家水準の幼保共通カリキュラムが策定されている。しかし,日本との相違点は,オリニジップ(日本の保育所に相当)は,第三者評価が義務づけられ,保育に対する社会的責任が強く打ち出され,評価費用は全額国庫負担となり,保育振興院による指導が強化されたことである。結果として,乳幼児中心の「安心な保育環境」「乳幼児権利尊重」が必須指標として指定され,保育教職員の勤務条件改善,職務力量向上のための評価項目も強化したといわれる。
日本でも,保育の質の明確な評価システムが構築され,保育者のさらなる研鑚と,処遇改善をすすめることが,保育者がやりがいを感じ,乳幼児の安心安全な教育環境の維持に,つながるのではないだろうか。
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