建帛社だより「土筆」

令和6年9月1日

全世代型社会保障制度における言語聴覚士の果たす役割

一般社団法人日本言語聴覚士協会会長 内山量史この著者の書いた書籍

は超高齢社会への対策として,団塊の世代が七五歳以上となる2025年を目途に重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住居・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」を構築してきました。

こ1~2年の間に地域包括ケアシステムに加え人生百年時代を見据えた,高齢者だけではなく,子どもたち,子育て世代,さらには現役世代までを対象とする「全世代型社会保障制度」の構築が推進されています。

世代を支える施策において,言語聴覚士は様々な役割を果たしています。

齢者施策である地域支援事業では,地域ケア会議に参画し聴覚やコミュニケーションに衰えがある方の生活課題の解決および自立支援に向けた助言や支援を行います。また,通所型介護予防事業として聴覚,コミュニケーション,嚥下の評価・助言・指導やコミュニケーションがとりにくい方の活動や社会参加を支援します。さらに,地域住民や関連職種の方々に「難聴との付き合い方」,「失語症の理解」,「肺炎予防」などの講話や指導も行います。

どもの現状に目を向けると,文部科学省の報告で全児童生徒数が減少している一方で,特別支援教育を受ける児童生徒は十年間で約1.9倍に増加しています。そのような中で,特別支援学校の教員から,コミュニケーション,構音,摂食嚥下,言語発達といった多岐にわたる内容の相談を言語聴覚士は受けています。

のような状況において,言語聴覚士等の専門家の派遣・配置は特別支援教育全体の質を高めることが期待されます。まだわずかではありますが,小学校に言語聴覚士が採用されるケースも報告されています。

た,子育て支援においては,障害の有無にかかわらず子育て世代に共通していえる,子どもとの接し方や発達に関する不安や悩みに対して,情報提供を行うことで保護者の不安を軽減することができます。さらには,ことばの遅れを疑うポイントを伝えることで,保護者の気づきを促すことも可能となります。

害時においても,言語聴覚士は専門職として地域生活の支えとなる活動をしています。

年1月に発災した能登半島地震では,管理栄養士や看護師,医師と協働で,食事場面を観察し,避難所で提供できる食事の対応に取り組みました。食事摂取量の確保,栄養障害の予防や,特に高齢者では窒息事故・肺炎の予防に対して活躍しました。

世代型社会保障制度の中で言語聴覚士が活躍するためには,①必要な方に必要な言語聴覚療法の提供,②言語聴覚療法(言語聴覚士)の質の担保,③言語聴覚士が将来持続可能な職業となるための担い手の確保,④言語聴覚士が“いきいき働くことができる”環境の整備,が重要となります。

のためには,生涯学習システム,卒前教育をはじめとする制度対策(医療・介護・福祉),当事者団体支援等の地域社会への貢献,処遇改善(継続的な賃上げ),出産子育てに伴う離職の防止といった様々な課題に取り組んでいく必要があります。

幼児から高齢者までライフステージのすべてにかかわる専門職として,国民から信頼される言語聴覚士であり続けるためにも,本協会と都道府県言語聴覚士会,そして言語聴覚士学校養成所,現場で働く言語聴覚士が強固な連携を図り,言語聴覚療法の普及・発展と国民の保健・医療・介護・福祉・教育の増進に向けた活動を今後も継続してまいります。

目 次

第120号令和6年9月1日

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