令和6年9月1日
インクルーシブスポーツの推進
皇學館大学教授 大杉成喜この著者の書いた書籍
筆者の所属する皇學館大学では,平成27年度よりCLL(Community Learning Labo)活動に取り組んでいる。
CLL活動とは,大学のある伊勢志摩定住自立圏(三重県の3市5町)*を中心とする三重県内のフィールドにおける様々な地域課題について,学生が体験的に学び,解決に取り組む学修プログラムである。この取り組みは,学部の枠を越えたチームを組み,依頼者である地域の自治体等と連携して課題を解決する。今年度は26の課題に取り組んでいる。
筆者は,伊勢市教育委員会事務局スポーツ課と連携して「CLLインクルーシブスポーツ推進プロジェクト」のサポート教員を担当してきた。
「障害者の権利に関する条約」(国連,2006)では「障害者が他の者との平等を基礎としてレクリエーション,余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とすること」(第三十条)と述べられている。
障害者スポーツは,パラリンピック等における障害者アスリートの活躍により,日本でも広く認知されてきている。また,障害のある人にあわせてスポーツのルールや器具を適応させ,参加の範囲を広げる「アダプティブスポーツ」も知られるようになってきた。
インクルーシブスポーツとは,それらを発展させ障害の有無や年齢,性別,国籍等を問わず,誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い,人々の多様な在り方を認めあえる共生社会の実現をめざし,スポーツを通してその理解と普及を図ることを目的としている。
昨年度は,伊勢市の広報誌における特集記事やケーブルテレビによる宣伝,伊勢市総合体育館でのインクルーシブスポーツフェスタの企画運営に取り組んできた。そこで今年度は,伊勢志摩定住自立圏に範囲を広げ,「いせスポーツフェスティバル2024」と連携したインクルーシブスポーツ体験会を企画している。
また,筆者の研究室では,障害のある人への機器利用による学習・生活支援である「アシスティブ・テクノロジー(支援技術)」の研究をしている。近年は重度身体障害者が視線入力装置等により,障害のない人とも対等にパソコンやコンシューマゲームの操作ができ,プレイヤーだけではなく観客も含めたeSportsとして楽しめることを目標に,その利用環境の開発・実践を進めてきた。
CLLインクルーシブスポーツ推進プロジェクトのイベントでは,参加者が支援技術を体験できる機会を設けている。テクノロジーを活用して障害のある人もない人も対等に試合ができ,試合を応援する人たちも一緒に楽しめるインクルーシブスポーツを通して,共生社会の理解推進の一助になれたらと考えている。
CLL活動は学生の活動の場であると同時に,筆者にとっては研究成果の普及の場としてありがたい機会でもある。この活動を通して地域連携を大切にしていきたい。
*伊勢志摩定住自立圏構想として,伊勢市と近隣市町村が連携し,住民の暮らしを守ることで人口定住を促進する,総務省の取り組み。
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