令和6年9月1日
保育・教育におけるICTの活用とその可能性
國學院大學教授 島田由紀子この著者の書いた書籍
2019年に文部科学省から示された新しい教職課程コアカリキュラムでは,保育内容の指導法において「情報機器及び教材の活用法を理解し保育の構想に活用する」ことが求められている。さらに,2020年度スタートの小学校の学習指導要領で,情報活用能力の育成とICT(情報通信技術)の活用が掲げられた。この直後に緊急事態宣言(新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく措置)が発出され,ICTを活用した遠隔による保育活動や授業が全国的に実施されることとなった。
今日,ICTを活用した保育や教育は日常的に行われており,子どもの遊びや学びにとって大きな利点が考えられる。
例えば,幼稚園等や学校で栽培している植物や飼育している動物等の,夜間や長期休暇中の様子を録画して視聴することで、自分たちが育てている動植物の生態について、より興味や関心をもつことにつながる。また,表現活動や表現に関する授業では,自身の表現を画像や映像で即時に確認できたり,他者の表現や表現方法を知ったりすることもできる。さらに,継続的なグループでの遊びや学習においては,考えたことや実践したことを記録して,友達間で目指す方向を常に確認することが可能となる。
こうした実践記録は保育者や教師にとっても,子ども一人ひとりへの援助や,自身の指導を省察することにも活用できる。
外国籍の子どもとのコミュニケーションにおいてもICTの導入によって大きく変化している。子どもと保育者や教師が,スマートフォンによる会話の翻訳機能を介し,思いや考えを伝えあうことで,クラスで孤立することなく子どもの気持ちや遊びを支えることにつながっている。また,連絡やお便りは,翻訳機能を利用することで保護者の母国語による伝達が容易となり,保育者や教師の負担も軽減されている。
この活用により,外国籍の保護者の不安やニーズを幼稚園等や学校側が把握し,外国籍の保護者は幼稚園等や学校,保育者や教師の指導について理解できる。また,病気や障害により通園・通学が難しい子どもとも,画面を通じて一緒に遊んだり学習したりすることが日常的に行われてきている。
一方で,保育者や教師が画像や映像に記録することを優先したり過信したりすることで,目の前にいる子どもの気持ちやクラスの実態を把握することがおざなりになることがないように配慮することが大切である。また,指導計画を立てる際にAIを使用する場合や,教職員間での情報共有では個人情報について十分留意する。
ICTの活用は,直接的な体験を補完するためのものである。しかし,いつの間にかICTによる間接的な体験が,実際に経験したことに置き換わってしまうことのないようにすることが大切である。
直接的な体験に重きを置きながら,子どもたちの資質・能力に必要な「3つの柱」(個別の知能・技術、思考力・判断力・表現力等,学びに向かう力・人間性等)に基づく学びを育み,主体的・対話的で深い学びにつながるよう,保育者や教師はICTの活用とその可能性について考え,実践することが大切である。
目 次
第120号令和6年9月1日
発行一覧
- 第121号令和7年1月1日
- 第120号令和6年9月1日
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日