建帛社だより「土筆」

令和6年9月1日

介護離職を防ぐマネジメントへ

静岡県立大学短期大学部准教授 奥田都子この著者の書いた書籍

寿社会において「介護」は誰にでも起こり得る。核家族の共働き世帯が主流となった今,実子やその配偶者が無償の介護労働を担うことは容易ではなく,「介護は地域で」という流れの中で,配偶者の親の介護のために仕事を辞めるという選択肢は選ばれにくくなった。既婚・未婚を問わず介護責任を免れ得ない時代が到来し,男女問わず親の介護をしながら仕事を辞めずに両立できる働き方と生活のマネジメントが模索されている。

事と介護を両立するための支援制度は,育児・介護休業法に設けられているが,介護離職は毎年10万人前後にのぼる。介護休業は,対象家族1人につき最大で93日取得できるが,介護の平均期間である5年に比べるとずいぶん短い設定である。この期間を活用して,要介護の手続を進め,適切な介護サービスを選定し,在宅介護の環境の整備,あるいは施設入居の手続きをとる等,着々と介護体制を構築しなくてはならない。

もそも,介護保険の申請手続開始から,要介護認定がおりるまでに1~2か月を要することも珍しくない。特別養護老人ホームは要介護3以上でなければ入所できないが,都市部では待機者が多く,すぐに入れる施設となると利用料が高額な有料老人ホームにしか空きがない。空きを待つ間を在宅介護サービスでしのぐにしても,休業期間が残りわずかになると,高額な利用料だがサービスの手厚い施設か,人員配置やサービスが不安だが低額の施設か,離職して自ら介護するかの選択に迫られる。

る50代男性の場合,独居の母親の認知症が発覚し引き取り,介護をはじめた。介護休業を取得すると,まずは介護保険の申請を行い,入居施設がみつかるまで,平日はデイサービスとヘルパー利用,土日は家族でケアする体制を整えた。しかし,休業期間内に母親や家族の希望にあう施設に空きが出ることはなく,高額な施設への入居もやむなしと実家売却による資金確保に奔走するも,売却交渉が長期化した。その結果,休職とならざるを得なかった。

のように待機期間の長期化や要介護状態の進行,入居資金調達の困難,介護をめぐるストレスなどによって,93日以内に復職できないケースは少なくないと思われる。事例の男性は,資金調達と認知症介護の二重負担で心身の不調を生じ,傷病休暇に切り替えた。その9か月後に母親は入所できたが,自身の回復に時間を要し,傷病休暇満了後も復職せず,残念ながら離職に至っている。

様な要因が絡む介護離職を防ぐには,働く側が介護に備えて生活設計するだけではなく,雇用側にも93日の分割方法や,短時間勤務の有効な活用法などについて個別事情に即した相談体制が必要である。ケアマネージャーや介護福祉職は,介護への助言はできても,介護者の働き方については専門外である。準備期間のある育児休業と異なり,介護は突然にやってくることも少なくない。介護による心理的・経済的負担のため介護離職に至る前に,介護休業の取り方についても親身に相談に応じる体制が求められる。

目 次

第120号令和6年9月1日

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