令和7年1月1日
美術教育における「感性」の育成
元環太平洋大学副学長 村上尚徳 この著者の書いた書籍
AIなどの活用が一層進む中で,これからの社会においては人間ならではの豊かな「感性」の育成が求められている。
現行学習指導要領の基になった,平成28年12月の中教審答申において,「変化の激しい社会の中でも,感性を豊かに働かせながら,よりよい人生や社会の在り方を考え,試行錯誤しながら問題を発見・解決し,新たな価値を創造していくとともに,新たな問題の発見・解決につなげていくことができること」が学校教育を通じて育てたい姿として記されている。
また,芸術教育においては,「豊かな感性や想像力等を育むことは,あらゆる創造の源泉となるものであり,芸術系教科等における学習や,美術館や音楽会等を活用した芸術鑑賞活動等を充実させていくことも求められる」と述べられている。
これらを踏まえて,中学校美術科の学習指導要領では,教科目標に「~感性を豊かにし~」とあり,感性を育成することが美術科の大きな役割となっている。一方,絵を描いたり,ものをつくったり,作品を見たりするだけで本当に感性は育つのか? という疑問の声も聞かれる。
「感性」という言葉は様々な分野で使われている。中学校美術科では「様々な対象や事象からよさや美しさなどの価値や心情などを感じ取る力」と定義されており,自然物や人工物なども含めた形や色彩などの造形的な視点に関する感性が中核となっている。
美術の学習で感性を育成するためには,描くこと,つくること,見ること,を通して造形を捉える多様な視点をもたせることが大切である。例えば,校庭に生えている木々がある。多くの生徒はこの木々を普段見慣れているせいか,あらためてよく見ようとしない。しかし,そのような見慣れた風景の木々も,新緑の季節には緑のみずみずしさ,雨上がりには夕日に照らされた葉の輝きなど,季節や時間帯,天候などで表情が変わり,新鮮な美しさなどが感じられる。風景画を描くときに単に風景を写しとるのではなく,例にあげた視点に気付かせるような言葉がけをし,同じ場所でもそのときによって見え方が違うことを意識させることが大切である。
また,絵画を鑑賞する際には「なぜ平らな画用紙に描かれた絵から奥行きを感じるのか」と問うことで,「光と影により,奥行きや立体感が感じられる」「遠くの山の緑は青みがかっている」などの造形的視点に気付くことができる。感性を豊かにするためには,多角的な視点をもって対象を捉えるアンテナを豊富にすることが大切であり,視点があれば見過ごしていたことも目にとまり,様々な感じ方ができるようになる。
朝,目を覚まして夜寝るまでの間に目に映る自然物や人工物などの多くの造形。それらを豊かに感じとる「感性」を育成するためには,単に描いたりつくったりすることに重点を置くのではなく,これらの活動を通して,造形に対しての視点の多様なアンテナを立てていくことが必要である。
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