令和7年1月1日
子どもの養育・保育の質の向上と次世代の保育
大阪公立大学大学院客員研究員 寺見陽子この著者の書いた書籍
合計特殊出生率が1.20と過去最低となった(厚生労働省,人口動態統計,2023)。このような中,こども家庭庁は,こども基本法を基にこども大綱を策定し,こども未来戦略やこども・子育て支援加速化プランなどによって,「こどもまんなか社会」の実現に向けて,次元の異なる少子化対策を展開している。ここでは,子どもの権利を保障し,最善の利益を追求するとともに,貧困や格差のない良好な成育環境を確保し,すべての子どもの幸せな成長を保障していく方針が示されている。
これを受け,認定こども園や保育所では,保育の充実はもとより,地域の身近な「かかりつけ相談機関」として,さらには保護者の多様な働き方やライフスタイルに関係なく保護者の子育てを支援する機関としての役割を担うことになった(こども誰でも通園制度)。
このように保育が多機能化する今日,子どもの健全な発達を保障するために,保育者が保護者といかに連携し,家庭養育と保育の質を高めるかが重要な課題である。特に,育児への不安や負担感,家庭養育の影響が大きい3歳未満児の保育や保護者支援の在り方を再考する必要がある。千葉大学の砂上史子教授らの論文では,1,2歳児の保護者の育児負担感は養育態度の適切さ,社会情動的能力(忍耐力,自尊心,社交性など)に影響し,保護者と保育者の関係性が良好だと,保護者の育児負担感が軽減し,養育態度の適切さが向上する可能性があることを報告している。
一方,経済協力開発機構(OECD)は「保育の質」を,子どもたちが心身ともに満たされ,豊かに生きていくことを支える環境や経験であると定義している。さらに,①構造の質,②プロセス・相互作用・実践の質,③子どもの育ちと学びの姿(outcome)の質,の五側面を示し,保護者と保育者との信頼関係がこれらの向上に寄与するとしている。
筆者が0,1,2歳児をもつ保護者と担当保育者を対象に行った調査では,園で行われる保護者支援は,両者との信頼関係が保護者支援の成果を高めるとともに保護者のイライラ感を低減させていた。それが,子どもの気持ちに共感すること,子どもに対してのわかりやすい言葉がけを促し,保護者が育児における自信を高めていた。同時に,子どもの言語発達にかかわる保育内容を通して,保育の構造の質とプロセスの質に影響し,子どもの社会情動的能力の発達にも良好な影響を与えていた。
これからは,保護者を保育に巻き込んで,一緒に育児や保育をする観点が求められるのではなかろうか。子育て・子育ちの本質を失うことなく,子どもの保育をマネジメントし,保護者には必要なときに必要な支援が保育の専門的知識や技術をもって提供できるような,これからの時代に求められる次世代の保育を模索していきたいものである。
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