建帛社だより「土筆」

令和7年1月1日

「連携」とコミュニケーション

倉重こどもクリニック 緒方祐子この著者の書いた書籍

療や療育などの分野において,「多職種連携」の重要性が啓蒙されている。言語聴覚士の領域においても,多職種間,施設間や言語聴覚士間の「連携」は対象患者への言語聴覚療法を行う際のキーワードとなっている。言語聴覚療法は,言語発達障害,吃音,構音障害や失語症などの言語病理学的診断名にて施行される。それぞれの言語障害の問題は多岐にわたり,個別に様々な背景や要因があるため,言語聴覚士単独またはひとつの施設で解決できないものもある。そのため,連携は欠かすことはできず,リハビリテーションの根幹となる。

唇裂・口蓋裂の例では,明瞭なことばを獲得し,整容的にも心理社会的にも問題のない社会生活を送ることをゴールとして,乳幼児から成人に至るまで治療が行われる。術者(口腔外科/形成外科),言語,歯科,耳鼻咽喉科,小児科,心理,看護および教育・保育などの多職種連携体制は,1950年代より包括的治療の重要性が提唱され,口蓋裂専門外来のある大学病院などのチームによる治療がなされてきた。

年では,専門外来のある施設のみならず,必要に応じて地域の医療機関との施設間連携が行われるようになってきている。また,言語聴覚療法においても,対象者の居住地に近い施設で,高頻度の構音訓練を確保するためなどの理由で,基幹施設と連絡を取りながら,医療・福祉・教育機関などの施設で,施設の枠を越えた言語聴覚士間での連携が展開されてきている。

内連携では,直接意見を交換し,治療方針などを決定し治療が行われる。施設間や言語聴覚士間での連携では,異なった施設での治療が展開されていくので,情報共有などが必要である。しかしながら,連絡を取ってはみたものの,意見交換や連携が取りづらいなどの声が散見され,どのように治療を進めてよいかと苦慮する場合もあると聞く。

療方針が一貫していないと,言語聴覚療法の対象者や家族への影響が懸念される。円滑な連携こそが,治療の質を確保し,その結果,対象者と家族のQOLの向上につながる。連携の困難さを打破するためには,連携する担当者同士がコミュニケーションをとり,課題や問題解決に必要な手続きを共有し,対象者本人や家族も一緒に治療を進めていく必要がある。

,連携をスムーズにするために言語聴覚士に求められていることは,質の高いコミュニケーションである。日頃,臨床現場などで困っていることを忌憚なく話す仲間を増やすことが必要である。そのためには,施設を横断した情報交換などを活発に展開するのみではなく,顔が見える場(研究会や学会など)に参加し,悩んでいることや自分はどのように取り組んでいるかなどを協議することが必要であろう。自分が行っている介入が対象者の症状に適応しているのか? など,検証しながら治療を担うことが,対象者や家族のみならず,言語聴覚士自身のQOLも高めていくと考えている。


目 次

第121号令和7年1月1日

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