基礎から学ぶ栄養学研究 ―論文の読み方・書き方から科学的根拠に基づいた実践まで―

著 者
発行年月日
2022年11月1日
ISBN
978-4-7679-6217-7
Cコード
C3047
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定価 3,300(本体価格:3,000円) 在庫あり

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内容紹介

人を対象とした栄養学(人間栄養学・栄養疫学)を題材として,研究活動における一連の流れを,具体例をもとにして説明。

栄養学研究における倫理から,論文の探し方と読み解き方,栄養学研究の実践方法,学会発表・論文執筆まで,基礎から解説する。科学的根拠に基づいた栄養学の実践についても言及。

管理栄養士養成のための栄養学教育モデル・コア・カリキュラム「栄養学研究」に対応。学部生・大学院生への学位論文指導等のテキストにも好適。

まえがき

推薦の序

 本書を一読して次の 2 つのことを思い出した。

 かなり昔だが,アメリカでの研究・教育経験を持つ日本人の物理学者とアメリカ人のライターが書いた本を読んだことがある 1)。そのなかに「研究能力と教育能力はおおむね比例する」といった主旨の文章があり,なぜか今も強く記憶に残っている。みずからが研究者となり大学教員となってからの解釈は,「(大学の)教員にとって研究能力は必要条件である」である。つまり,「すばらしい研究者でもすばらしい教育者でない可能性はあるが,研究者としてすばらしくない人がすばらしい教育者である可能性は低い」と思う。

 次にたいせつなことは,理論だけを習ってもけっきょく手も足も頭も動かず,一方,技術(ハウツー)だけを身に付けてもそれは機械にすぎず人間活動(まして知的活動)ではありえない,ということである。すなわち,理論と技術(ハウツー)は,同時または順を追って両方とも学び身に付けなければならないものである。このどちらかだけを説く書物は世の中に多い。特に近年は後者の乱発が目立つ。前者を執筆するには知識だけでなく,思考論理と科学哲学の素養が要求される。そして,思考論理と科学哲学は,技術(ハウツー)のなかに通奏低音として流れていなければならない。そうでなければ,それぞれの段落や文章はばらばらのピースに過ぎず,そのピースをいくら並べてみてもジグソーパズルは完成しない,すなわち研究にはならない。つまり,読んでいただきたいのは,ひとつの思考論理と科学哲学に貫かれた理論と技術(ハウツー)が一冊にまとめられた,ひとりの研究者(教育者)の手による書物である。

 本書は,世界の栄養学研究の舞台でいま活躍する日本人研究者が,みずからの研究の舞台裏を披露しながら,一貫した科学思考の元,極めて具体的に研究方法を説いた一冊である。栄養学研究をこころざす人に一冊だけ勧めるとすれば,私は本書を勧めたい。1 ページずつゆっくりていねいに味わっていただき,ひとつずつすべてを自分のものとしていただきたい。


文献
1)S.K. ネトル,桜井邦朋.独創が生まれない 日本の知的風土と科学.地人書館,1989.


2022 年 7 月
東京大学大学院医学系研究科
佐々木敏

はじめに

偏見に傾いてはならない。見る,聴く,察知する。観察する。それが自分の仕事。
アーシュラ ・K・ ル ・ グィン(訳・小尾芙佐)『言の葉の樹』早川文庫 SF,2002 年

 本書を執筆中に何度か,過去の二つの時点における自分を思い出した。

 一つは,日本から遠く離れること 9000 km,イギリス・北アイルランドで途方に暮れている 2001 年 9 月の自分だ。北海道大学教育学部 4 年生だった筆者は当時,交換留学生として,アルスター大学医学生物学部人間栄養学コースでいくつかの単位を履修し始めたところだった。その中に,最終学年の通年単位として,「人間栄養学研究」があった。これは主として,先行研究のレビューを中心とした「研究方法論」と,実際に自分で研究を進める「研究プロジェクト」で構成されていた。前者は講義形式で,後者はそれぞれの指導教員(筆者の場合は二人)による個別指導で進められる。筆者が途方に暮れたのは,これからやることになっていることを自分がやり遂げるなんて無理だと思ったからだ。「やらなきゃいけないことがたくさんあることは分かっている。でも,何をどう進めればいいの?

 2003 年5月,富士山が真正面に見えるデスクで,またもや途方に暮れているのは静岡県立大学大学院生活健康科学研究科修士課程1年の自分だ。入学時点で自分がやりたい研究は明らかになっていた(第2章の最初の参考文献は修士論文の一部だ)。しかし,当時の日本ではまだまだ珍しい分野の研究であったため,参考になる書籍も豊富とはいえず,指導教員の先生に頼り切りになるわけにもいかなかった。研究の意義を理解してもらうのも難しい状況であった。

 本書を書き終えたいま,当時の自分に本書を届けたいと思う。

 要するに本書は,若かりし頃の筆者と同じような悩みを抱えて困っている人に向けて書かれたものである。どのように読み,活用するのも読者の自由だが,願わくは,何度も何度も繰り返し読んで,知識と技術をバランスよく蓄えていってほしい。

 本書は,人を対象とした栄養学(人間栄養学・栄養疫学)を題材として,研究活動における一連の流れを,具体例をもとにして説明したものだ。研究活動における流れに沿って書かれているので,基本的には前から順番に読んでいくのがよいだろう。

 第 1 章では,栄養学研究の意義と倫理について書いてある。概念的な内容でもあるので,最初は軽く読み流してもよいかもしれない。

 第 2 章では,人を対象とした栄養学研究の基本として,食事調査法,研究デザイン,統計の基礎を解説している。本書全体を理解する基盤となる内容なので,何度も参照したい。

 第 3 章では,筆者の論文を題材として,筆者が実際にどのように論文を読み進めているかを丁寧に解説している。また,研究を行うために不可欠な「先行研究の研究」の進め方についても説明している。一生もののスキルをぜひ身につけてほしい。

 第 4 章では,筆者が実際に実施した研究を例として,研究課題の抽出からデータ収集の実施までを,実際に使用した質問票や研究マニュアルも示しながら解説している。「研究の舞台裏」を少しでも体感してもらえればと思う。

 第 5 章では,研究論文の書き方について,筆者の論文を例として,研究テーマの設定から論文投稿までを具体的に解説している。研究は論文として発表して初めて完結する。論文の書き方の基本をしっかりと会得したい。

 最後の第 6 章は,科学的根拠に基づいた栄養学を実践するための基本的な考え方と方法を解説している。最も難しい章だと思うが,栄養学の奥深さを理解する端緒と考えて,繰り返し読んでほしい。 なお,本文中に太字で表している語句は,栄養学研究におけるキーワードである。脚注には英語表記(米国英語)も載せた。索引は,キーワードの日本語表記と英語表記の両方で作られているので,有効に活用してほしい。

 本書を構成するのは,筆者の 20 年あまりの研究活動そのものだ。よって本書は,数え切れないくらい多くの方々の有形・無形のご支援およびご協力のたまものだ。特に,筆者がのべ 10 年以上にわたって所属する東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の教授 佐々木敏先生,事務担当 嶺佳華さん,ポスドク 篠崎奈々博士の日々のサポートがあってこそ,筆者は最高の環境で研究を進めることができている。心より感謝を申し上げたい。また,一人一人のお名前をあげることはできないが,これまでに筆者といっしょに研究を進めてくださった研究者・協力者・学生のみなさま,研究にご参加くださった方々,研究を直接・間接的に支えてくださったみなさまに心から感謝したい。最後に,筆者の日々の生活を支えてくれている家族に心からの感謝を伝えたい。

2022 年 10 月
東京大学大学院医学系研究科
村上健太郎

目 次

第1章 栄養学研究の意義と倫理
第2章 人を対象とした栄養学の基本
第3章 研究論文の読み解き方
第4章 栄養学研究の実践
第5章 研究の発表
第6章 科学的根拠に基づいた栄養学の実践

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書籍情報

シリーズ名・巻数
書籍名 基礎から学ぶ栄養学研究
著 者
分 野
シリーズ
ISBN 978-4-7679-6217-7
Cコード C3047
定 価 3,300円 (本体価格:3,000円)
発行年月日 2022年11月1日
版型・装丁 B5 並製 2色
ページ数 192ページ
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