幼稚園や保育園,こども園などにおいて,障がいのある子、特別の配慮の必要な子を健常児と区別せず,「ちがっている」すべての子どもを同じに保育するインクルーシブ保育。
その理念と具体的な方法,課題,保育者自身の意識の問題等を第一線の研究者がわかりやすいことばで解説。さらに,先進的にインクルーシブ保育を実践する4つの園の実際を,多くの事例を交えて多角的に紹介。各園のありのままの姿は,読者に大いなる示唆を与える。
インクルーシブ保育のさらなる進展を願いまとめた,すべての保育者,保育関係者必携の一冊。
幼稚園や保育園,こども園などにおいて,障がいのある子、特別の配慮の必要な子を健常児と区別せず,「ちがっている」すべての子どもを同じに保育するインクルーシブ保育。
その理念と具体的な方法,課題,保育者自身の意識の問題等を第一線の研究者がわかりやすいことばで解説。さらに,先進的にインクルーシブ保育を実践する4つの園の実際を,多くの事例を交えて多角的に紹介。各園のありのままの姿は,読者に大いなる示唆を与える。
インクルーシブ保育のさらなる進展を願いまとめた,すべての保育者,保育関係者必携の一冊。
編者として「はじめに」を記すにあたり,まず私自身のことから述べさせていただきます。障がいのある子どもとの出会いは,数十年前の大学院生のときに遡ります。当時大学院で障がい児・者心理学を専攻していて,障がいのある幼児を受け入れていた私立葛飾こどもの園幼稚園に週に一日働く機会を得ました。一般の幼稚園で障がいのある幼児を積極的に受け入れて統合保育をしていることに興味をもったのです。当時は,障がいのある幼児は障がい児の療育機関に通うことが一般的で,幼稚園・保育所で障がい児を受け入れて統合保育をすることは珍しかったのです。
この幼稚園には,障がいのある子どもと健常児が遊びを通じて自然に関わり合い,育ち合う環境がありました。子ども同士が遊びを通じて,仲間になっていく姿を見たのです。言葉の遅れがあっても,遊びを通じて認知や言葉の発達が促進され成長していくさまを目の当たりにしました。ときには子ども同士の思いが伝わらず,ぶつかったり,衝突したりしながらも,相手の存在に気づき,相手の気持ちを理解することがきっかけになっていくのです。そこで私が学んだことは,子どもは共に遊んだ仲間とのつながりの中で,心身ともに満たされ幼稚園で居場所ができるということです。そのとき幼児期の遊びの重要性に気づいたことが,やがてインクルーシブ保育を志す方向に向かうことになりました。
1994年6月,スペインのサラマンカ市でユネスコ(UNESCO:国連教育科学文化機関)とスペイン政府が開催した「特別なニーズ教育に関する世界会議」で採択された「サラマンカ声明」は,インクルーシブ教育のアプローチを推進するための世界各国の基本的政策の転換を検討するきっかけになっています。ユネスコの意図する教育は,障がいのあるなしで子どもを分けるのではなく,すべての子どもたちにとって効果的な学校をめざして,すべての子どもたちが一緒に学ぶべきと強調しているところです。この声明により,世界各国にインクルーシブ教育の方向性を示すことになりました。
地域社会において障がい者との共生を進めるためには,幼児期からのインクルーシブ保育を積極的に浸透させることが必要です。障がいのある子どもだけでなく,外国籍の子ども,セクシュアルマイノリティの子ども,貧困家庭の子どもなど,多様な特性を含むすべての子ども同士が相互に関わり合って,お互いに認め合う心を醸成することが大切なのです。幼児期から,小学校,中学校,高等学校,大学などの学校教育機関でインクルーシブ教育を進めることで,多様性に寛容な社会を築くことができると信じています。
本書の企画趣旨は,幼児期からのインクルーシブ保育をさらに浸透させたいという編者の思いから生まれています。今回執筆いただいた,前述の葛飾こどもの園幼稚園をはじめとした,愛隣幼稚園,愛の園ふちのべこども園,聖愛園の各保育施設は,インクルーシブ保育の実践に積極的に取り組んでおり,日本保育学会の自主シンポジムで数年にわたり,何度も実践を発表し,共に切磋琢磨してきました。2022年,2023年の日本保育学会では自主シンポジウムにシンポジストとして登壇していただきました。執筆いただいた園長や保育者の方々にはご多忙の中取り組んでいただき,その労に感謝申し上げます。また,登場するすべての子どもたちにその遊びや活動からさまざまなことを学ばせていただき,明日の保育につながるエネルギーをいただいことに感謝申し上げます。インクルーシブ保育の実践に正解はありません。ここに登場する保育施設も日々ドラマが起こり,その都度,どうすることが子どものためによいのかを保育者同士が話し合い,情報を共有しながら進めており,まさに試行錯誤の連続なのです。
また執筆者の堀智晴氏は,インクルーシブ保育の実践研究の先達であり,師と仰ぐ存在です。堀氏の存在があったからこそ,インクルーシブ保育の研究に挑むことができたと思っています。
最後に建帛社編集部には企画から刊行まで親身にご相談にのっていただき感謝申し上げます。この励ましなしには,刊行はできなかったと思っています。
本書の内容についての責任はすべて編者にあります。読者からのさまざまなご意見をお待ち申し上げます。本書を手に取った読者がすべての子どもの輝きのためにインクルーシブ保育に関心をも
たれ,挑戦したいと思うことを祈ってやみません。
2023年7月
編者 小 山 望
第1章 インクルーシブ保育
1.「障害者の権利に関する条約」とインクルーシブ保育
2.インクルーシブ保育と総合保育のちがい
第2章 インクルーシブ保育を創る―その方法と工夫―
1.みんなとちがう変わった子
2.インクルーシブ保育を創る
3.子どもたちへの3つの願い
4.インクルーシブ保育を創る4つの視点
第3章 「成果重視型」の保育と「プロセス重視型」の保育
1.見えた結果を評価する「成果重視型」の保育
2.子どもの主体背を尊重し一人ひとりのプロセスをとらえる「プロセス重視型」の保育
3.今まで行ってきた自分自身の保育に対する意識を変えることの難しさ
第4章 園での実践① 一人ひとりに向き合う
1.インクルーシブ保育の工夫,プログラム
2.インクルーシブ保育の事例―インクルーシブ保育を通して子どもとつながる
3.インクルーシブ保育を実践して
第5章 園での実践② 自由で主体的な遊び
1.インクルーシブ保育の工夫,プログラム
2.インクルーシブ保育の事例―言葉の問題から
3.さまざまな問題を抱えた保護者への支援
4.保育者が抱える問題と支援
第6章 園での実践③ 多職種協働の視点から
1.インクルーシブ保育の工夫,プログラム
2.インクルーシブ保育の事例―自閉症の子ども
3.保護者との関わり
4.保護者が抱える問題と支援・連携
第7章 園での実践④ 障がい児共同保育
1.インクルーシブ保育の工夫,プログラム
2.インクルーシブ保育の事例―たてわり保育の子どもたち,保育者たちの姿
3.インクルーシブな社会をめざして
第8章 インクルーシブ保育を進める
1.4園の実践からみえてくる共通項
2.正解のない,試行錯誤の連続
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