平成21年1月1日
特定保健指導の現状と課題
関東学院大学准教授 井上 浩一この著者の書いた書籍
平成20年4月より「高齢者の医療の確保に関する法律」などに基づき,40歳以上75歳未満のすべての被保険者,被扶養者に対してメタボリックシンドロームに着目した「特定健診・特定保健指導制度」が始まり,すでに8か月が過ぎた。これまでの動きをみてみると,特定健診は実施したものの,特定保健指導はまだ手つかずで,今から始めようかという保険者もあるほどで,その動きは全般的に鈍いのが現状である。
特定保健指導に必要な人材の育成・確保をはじめ,結果を出すための保健指導手法の確立,さらには円滑な保健指導事業の運営管理等に関し,どのような体制システムの仕組みで,如何に費用がかからないよう,効率的かつ円滑に事業を進めるかが保険者にとっては大きな課題である。
そもそも,特定健診・特定保健指導は,これまでの老人保健制度では,かかった医療費は事後的に配分され,健保の持ち出しが膨らみ,保険制度そのものが破綻をきたしかねないことから,かかった費用の一部を高齢者にも負担してもらい,国民一人ひとりがこれまで以上に医療費を節約する意識をもってもらいたいという願いのもとに考え出されたものである。将来,病院や介護の世話にならない,あるいは少しでも世話になるのを遅らせるためにも,若者,高齢者問わず,自分自身で健康づくりに励む意識改革が重要である。
さて,特定保健指導が始まって8か月が過ぎたわけであるが,これまでの状況からみて,以下のような研究課題をあげることができる。簡単に紹介したい。
一つ目は,現在,実施されているリスク個数(血糖・脂質・血圧・喫煙)による介入手法(情報提供・動機づけ・積極的支援等)に加え,よりきめ細かな指導と効率化を進めるためには,本人の現在の健康行動(知識や生活習慣)や行動変容(取り組み状況)も加味した分類パターンに応じた保健指導のあり方をモデル的に実施し,検証する必要があること。
二つ目は,現行において実施されている事業スキームを改善できるよう,中断事例やリバウンド事例等の抽出とその課題,さらにはその課題に対する解決策を検討する必要があること。
三つ目には,特定保健指導対象外の者に対する現行の「情報提供」について,例えば,対象者のタイプ(特性)別に介入方法(情報提供のあり方・内容等)を変えるなど,メタボリックシンドロームへの移行を防止するアプローチのあり方について検討・確立する必要があること。
最後に,重症化防止のための保健指導については,例えば,現在日本栄養士会が進めている栄養ケア・ステーションを核とした,地域の医療機関や行政機関等との連携による,地域の保健指導支援システムの確立も重要ではないかと考えている。
その他にも検証しなければならない課題はあろうと思うが,研究機関,団体,養成施設,行政機関等の連携・協働による,これらの課題解決に向けた努力をし,より良い社会へしていきたいものである。
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