平成29年9月1日
小児領域における言語聴覚士の現状と役割
目白大学教授 内山 千鶴子この著者の書いた書籍
小児領域で働く言語聴覚士の割合は少ない。平成28年末の日本言語聴覚士協会の調べでは同協会に登録している有資格者13,099人のうち,小児言語分野で働く言語聴覚士は3,615人で全体の28%弱である。対象とする児童数は,平成28年に内閣府が公表した「参考資料 障害者の状況(基本的統計より)」によると18歳以下の身体障害者は7.8万人,知的障害者は15.9万人である(平成24年の総務省統計局人口推計では7~15歳までの義務教育期間の児童数は1,033.7万人)。
さらに学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合は,文部科学省が調査した結果(平成24年,「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」)では,6.5%と推定され,全児童数から換算すると約67万人と推計できる。
これらの児童は自閉症スペクトラム障害,注意欠如多動性障害,学習障害と診断されるか,その障害に類似する症状を呈する。自閉症スペクトラム障害,注意欠如多動性障害はコミュニケーション障害を生じやすく,学習障害は読み書き,算数の学習に困難を示す。これらの児童と知的障害児に対して,コミュニケーション障害支援と学習支援は言語聴覚士が担うべき重要な職務内容である。
しかし,上記概算90万人近くの障がい児を3,615人の言語聴覚士が支援することは不可能である。小児領域で働く言語聴覚士を増やすことが障がい児支援にとって喫緊の課題であろう。言語聴覚士養成校で学ぶ学生の半数近くは小児領域で就職したい希望をもっている。しかし,実際に就職先が少なく成人領域で就職する。小児領域の職場は,病院,障がい児の通所施設,児童発達支援センターなどである。最近では,保健センター,療育支援センター,放課後等デイサービスを実施する施設に言語聴覚士は配置され,少しずつ職場が拡大している。筆者が療育施設でお会いした保護者は医療機関で言語聴覚療法を希望しても,希望者が多く予約が取れないと嘆いておられ,医療機関でも言語聴覚士が増加することが必要である。
また,6.5%の発達障害の可能性がある児童は,学校生活で行動面,学習面で困難を生じている。これらの児童に専門的な支援を提供するために,言語聴覚士が学校教育で活躍できる方策が必要である。現在の学校教育法(教育職員免許法)では教員免許をもたない言語聴覚士は小学校,中学校,高校へ教員として就職できない。特別支援教育の制度で巡回相談員や専門家チームの一員として参入できるが,児童や担任教員と一時的なかかわりが多く,専門的な支援を継続して提供することが困難である。児童の困難性を正確に評価することが教育・支援の第一歩である。コミュニケーションや学習面の評価は,まさに言語聴覚士が得意とする内容である。
学校教育で言語聴覚士が活躍できる場が広がると,児童への支援内容の幅がさらに広がると期待できる。学校制度の見直しを望みつつ,現制度の中で可能な支援を確実に実施し,小児領域での言語聴覚士の役割を果たしていくことが重要である。
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