令和2年9月1日
Society 5.0時代に向けた特別支援教育
愛媛大学教授 NPO法人志《こころ》リレーションLab理事長 苅田知則 この著者の書いた書籍
子どもの頃に見たマンガには,黒板や紙の教科書を使わない未来の学校が描かれ,夢見たものだ。そういう学校が実現しつつある。
国が実現を目指す近未来社会(Society 5.0)に生きる子どもたちにとって,ICT端末は鉛筆やノートと並ぶ必需品と位置づけられている。Society 5.0の実現に向け,2019年12月に,文部科学省はGIGAスクール構想を打ち出した。義務教育を受ける児童生徒のために,一人一台の学習者用ICT端末と高速ネットワーク環境などを整備する五年間の計画である。
また,先立つ2019年4月,特別な配慮を必要とする子の学習上の困難低減のため,学習者用デジタル教科書を制度化する「学校教育法等の一部を改正する法律」等関係法令が改正された。これに伴い,紙の教科書を主たる教材として使用しつつ,学習者用デジタル教科書を併用できるようになった。
ただ,学習者用デジタル教科書とは,紙の教科書の内容をそのままデジタル化した教材を指し,十全とはいえない。必要に応じて,教科用特定図書(PDF版拡大図書,音声教材等)も提供される。本学も,2019年度より文部科学省より事業を受託し,音声教材UNLOCK《アンロック》の提供を開始した。
Society 5.0時代に向けた変化は,障害・病気がある児童生徒にとって福音といえる。近年のICT端末には,アクセシビリティ機能が標準搭載されている。音声読み上げ機能を使うと教科書が音声で再生され,文字を読めなくても内容を理解できる。手で文字を書けなくても,音声認識機能により口述筆記できる。ICT端末が学習教材になることで,劇的に学びやすくなる。まさに夢のツールだ。
新型コロナウイルスによる長期休校中,全国的に遠隔学習が導入され始めた。遠隔学習もSociety 5.0時代に実現が期待されている。日本は他国に比べて導入が遅れており,課題も山積しているが,入院・療養中の子,不登校の子も自らのペースで授業に参加できる。個に合った学びを保障する手段のひとつといえる。
GIGAスクール構想は「誰一人取り残さない,個別最適化された学び」の実現が目的とされている。皆が同じ空間・教材教具で,同じ時間に,同じ課題に取り組む学びは過去となり,誂えた服のように一人ひとりの個性・特性に合った学びが期待される。その実現のために,人工知能(AI)や仮想・拡張現実(VR/AR),分身(アバター)ロボットといった先端技術の導入も見込まれる。
ドラえもんのような未来の友だちと相見えるのは,まだ先かもしれないが,誰もが互いに人格・個性を尊重して支え合い,多様な在り方を認め合える「共生社会」は,存外早く実現できるかもしれない。今は,障害・病気のある子,個性ありあまる子が地域の宝になる社会の到来を夢見ている。
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