令和2年9月1日
「コロナ禍転じて福と為す」決意を
十文字学園女子大学教授 小林三智子この著者の書いた書籍
かのニュートンは,通っていたケンブリッジ大学がペストの蔓延で休校になった際に一時実家に帰り,そこで木から落ちるリンゴを見て「万有引力の法則」を発見したそうである。彼は後に,ペストによるこの2年間の休校期間を「創造的休暇」と呼んだ。
翻って,コロナ禍で私たちは何をしただろうか……。できる限りのテレワークが推奨されていた時期,筆者の大学の講義も会議も,ほとんどすべてがZoomを利用した遠隔であった。通勤時間がない分,どれほど仕事がはかどることかと期待したが,その生活に慣れず,仕事の効率はかえって悪化した。もちろん,感染者数が日々刻々と増加していく報道に心が一向に落ち着かず,終わりの見えない戦いに不安な気持ちでいっぱいとなり,とても仕事に集中できる状況ではなかったといういい訳をさせていただく。
4月後半から本学も多くの大学と同様に,遠隔の授業がスタートした。前年度まで利用していたPPT資料をそのまま使うことは難しく,対面授業とは異なる工夫が必要であった。学生のモチベーションをオンライン授業で90分間持続させることは難しい。また,授業中の通信トラブルも突発的に起こり,その対処も大変である。ここは,新しい形式の講義が学生にどれくらい定着しているのか,昨年度までの学生との理解力の違いを比較したいところである。
本学では,感染防止に十分に留意し,受講人数を分散させるなどの対応をしたうえでの,実験・実習等の対面授業が6月下旬から始まった。管理栄養士・栄養士養成施設においては,実習施設等の代替が困難な場合には,臨地実習に代えて演習または学内実習等を実施しても差し支えないという通知を受け,学内での臨地実習さながらの実習を考える事態となっている。教育の質を落とさずに,学内で学外実習を実施する難しさに今まさに直面している現状は,多くの養成校で同様であろう。
コロナ禍において,私たちは生活面でも多くの変容を求められ,気づけばいつのまにか正しい手洗い,マスクの着用,「三密」を避ける暮らしが定着した。緊急事態宣言下では,stay homeで三日に一度の買い物,在宅勤務,学校の休校などがあった。この期間中に,運動量の減少やストレスにより,体重が増加したという話を多く耳にした。「応用栄養学」を担当してきた教員として,このような状況下での栄養管理の重要性について,改めて考えさせられた。加えて,文部科学省が検討している大学教育のデジタル化推進策では,VR(仮想現実)やAR(拡張現実)による遠隔での実習などを導入することが示されている。beforeコロナの生活に戻るには相当の時間が必要であろうし,さらにwithコロナにおいては根本的な生活変容とともに,大学教育についても大胆な変容を求められていると身をもって痛感している。
4月からの新入生と,長い間対面を果たせなかった先生方も多くおられるであろう。筆者もその一人である。この史上まれにみる苦労を背負いながら新たな歴史を刻んだ学生たちとともに,今後一層精進せねばと,決意を新たにしている。
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