令和5年1月1日
臨床栄養分野での新たな課題に対応した教育を
龍谷大学教授 中村富予この著者の書いた書籍
超高齢社会における栄養管理では,「低栄養」「嚥下障害」「がん」の3つが大きな柱になる。高齢者の健康を最期まで維持するのに栄養は不可欠である。そのために,医療・介護分野における管理栄養士の役割にますます期待が寄せられている。
令和4年度診療報酬改定では,入院栄養管理体制加算が新設され,病棟における栄養管理体制が評価されるようになった。さらに,周術期栄養管理実施加算も新設されている。また,令和3年度介護報酬改定においては,施設系サービスでは栄養ケア・マネジメントが強化され,通所系サービスや認知症グループホームでは栄養改善の取組が充実してきた。
医療の現場では,管理栄養士免許だけではなく,糖尿病や腎臓病,がんなどの病態栄養専門管理栄養士資格や専門的知識を有する管理栄養士が各病棟に配置され,入院患者の栄養管理を担う病院が増えはじめ,管理栄養士は栄養サポートチームの一員として活動している。管理栄養士の病棟配置を推進するためには,有益でより高い専門的な情報を提供できることが大きなアドバンテージとなる。そのためには,患者の喫食量を正確に把握し,精度の高い栄養管理を行うことが求められる。
たた,介護の現場では,最後まで自分の口から食べる楽しみを支援するために,ミールラウンドにおいて多職種連携で食事のようすを観察し,摂食嚥下機能や認知機能に応じた食支援が行われている。
このように臨床栄養の現場では,高度な栄養管理が求められ,管理栄養士・栄養士が日々創意工夫しながらその業務を担っている。
しかしながら,実践の現場での大きな変貌に教育現場が追いついておらず,これらの間に大きな乖離が生じつつあるのが現状である。教育の現場では,新型コロナウイルス感染症の流行により,デジタル化が急速に進み,パソコンやスマートフォンで様々な情報を共有するようになった。学内実習での症例検討もインターネットを使い,実際の患者さんを思い描きながら行えれば,学生の知識向上に,より役立つことができる。デジタル化は,これらの現場と教育の乖離を減らせる可能性がある。
今回,建帛社より『臨床栄養学実習』三訂版が発刊された。デジタル化のメリットを生かし,その分野の専門家である医師,看護師,管理栄養士による事例説明の動画を導入した。
臨床栄養学の臨地実習における症例検討と学内実習との違いは,実際の患者さんを見て症例検討できるかどうかである。実際の患者さんや家族を見て,その思いをくみ取りながら症例検討することは学生の洞察力を深化させる。
さらに実習書では,実際の喫食量の把握,ミールラウンドや在宅訪問栄養指導の症例を視聴することにより,患者さんや利用者さんのイメージがつかめるように試みた。ご協力いただいた先生方や患者さんや利用者さんに感謝する。
百聞は一見にしかず。実際の患者さんや利用者さん,臨床現場,在宅医療で活躍する管理栄養士や他職種の姿を見て,医療,介護,在宅医療に一歩踏み出せる学生が増えることを願う。
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