令和5年1月1日
医療事務(医療秘書)教育に携わって
元埼玉女子短期大学准教授 佐藤麻菜この著者の書いた書籍
今では周知の医療事務という仕事ですが,国民皆保険がはじまり,保険医療機関の会計事務に専門性が求められて生まれた職種です。
当初は各専門学校の卒業試験が資格代わりでした。1994年に診療報酬請求事務能力認定試験という公的な試験がはじまり,民間団体の検定試験も次々にできましたが,現在でも国家資格ではないため,資格が無くとも実は誰でも働けます。しかし,何の基礎知識もなく,国家資格をもった医師や看護師等の中でともに働いていくのは大変です。それゆえ,学びとして,検定試験等の受験が最適となります。また,今では,医療事務から診療情報管理士(カルテを体系化し分析運用)や医師事務作業補助者(医療文書の作成代行)等の資格を求められる業務も次々できています。一時期,医事コンピュータが普及すれば医療事務員は不必要になるともいわれましたが,実際の現場はそうはいかなかったようです。
さて,基礎の医療事務とは,主にカルテ記載より明細書(レセプト)を作成する業務です。それは診療報酬点数表の細かい通知の読み込み,迷路のような加算減算の理解,と思った以上に専門知識が必要です。カルテ読解には,ある程度の医学的知識も求められます。
筆者は専門学校で検定試験の指導を行い,レセプト作成を教えてきました。基本の点数を診療ごとに解説しながら,病気の話,薬の知識等を織り込みつつ項目別に練習する方式で,ある程度身についたら簡単な病名のカルテからレセプトを1枚作成。さあ,会計完了,これで請求ができます!と達成感をもってもらうと俄然やる気が出てくるようです。あとは検定試験を目標に不得意な箇所の個別指導を行い,自信をもたせるように進めていくのがコツでした。
その後,縁あって女子短大で医療事務コースの担任を受けもちましたが,専門学校に比べ医療事務への就労意識が低く,とりあえず短大で資格を取りたいが,本当は華やかな仕事に就きたいと考えている学生も多く,不安を感じていました。しかし,実際に学生と直に接すると,それは普通の若者が考える事,悩む事だと気づかされました。社会に出る若い人は不安です。迷います。いつの時代も誰もそうではありませんか?
私にできることは,学生達に授業や受験を押しつけるのではなく,できるだけ多くの情報を与えて,学生は迷いながらも自分で決めていく,その手伝いをすることでした。自らやる気になったときの学生はびっくりするほど勉強をするのです。
たまに,短大の卒業生より連絡があります。昨年も出産後育児に専念していたが,復職したく調剤事務の資格を取ろうかとの相談がありました。基本の医療事務知識があるので,調剤の資格がなくても十分やっていけるはず,また,調剤薬局なら働きながら登録販売士の資格を取るようアドバイスしました。このように卒業生が自分の人生をしっかり歩んでいるのを知ると,何よりの幸せを感じ,その成長を願う事が今のささやかな希望となっています。
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