令和6年9月1日
令和4年改正児童福祉法の施行でめざすもの
城西国際大学教授 所 貞之この著者の書いた書籍
平成28年の児童福祉法改正で子どもの権利保障を法理念として明確にしたことで,それを実現する制度整備が本格化した。「新しい社会的養育ビジョン」の公表,児童福祉法上の体罰禁止の明記,こども家庭庁の創設や「異次元の少子化対策」と銘打った「こども未来戦略」の公表等,近年,子ども家庭福祉の動きが激しい。
令和4年6月の児童福祉法改正もその流れだが,内容としては①市町村の子育て家庭への支援の充実,②一時保護の運営改善(一時保護開始時の司法審査の導入等),③児童相談所の支援強化(親子再統合支援事業等の新設,里親支援センターの設置),④社会的養育経験者の自立支援(児童自立生活援助事業の年齢要件等の弾力化,社会的養護自立支援拠点事業の新設),⑤子どもの意見聴取等を行う環境整備,⑥「こども家庭ソーシャルワーカー」の認定資格の導入,⑦子どもをわいせつ行為から守る環境整備,⑧障害児施策の体系の強化等であった。
この改正は,すべての子どもや子育て家庭を対象とする包括的な支援体制の強化をめざしている。これは子ども家庭福祉における,ポピュレーションアプローチとしての子育て支援からハイリスクアプローチとしての社会的養護に至る施策体系の強化といえる。
予防医学の概念に従うと子ども家庭福祉の施策は,主に地域の子育て支援が「未然防止(一次予防)」,要保護児童を対象とする社会的養護が「再発防止(三次予防)」に位置づく。
改正により,従来手薄であった「悪化防止(二次予防)」の施策の拡充が図られている。生活課題を抱えている状況がすでに発見されている者,つまり,保護者への養育支援が特に必要と認められる「要支援児童」,出産前からの支援が特に必要と認められる「特定妊婦」を対象とした支援の拡充である。
関連事業をあげると,こども家庭センターは,妊産婦・子ども・子育て世帯への包括的な相談支援や,支援を要する子どもや妊産婦等への支援計画の作成を行う。子育て世帯訪問支援事業は,ヤングケアラーを含む要支援児童や特定妊婦に対して家事や養育に関する援助を行う。児童育成支援拠点事業は,虐待リスクが高い,不登校である等,養育環境等の課題を抱える子どもを対象に,学校や家以外の居場所づくりを支援する。親子関係形成支援事業は,要支援児童とその保護者等を対象にペアレントトレーニング等を通じて親子間の適切な関係性の構築をめざす。妊産婦等生活援助事業は,特定妊婦等に一時的な住居や食事提供等の日常生活の支援,養育等にかかわる相談・助言等を行う。
これら事業を含む改正内容の大部分は今年度より施行されている。依然として子どもや子育て家庭を取り巻く環境は厳しい。対象者の抱える生活課題がすべからく「発見」され,適切な支援につながる既述のような制度整備が,子ども家庭福祉の施策体系の強化を促し、すべての子どもの権利保障へ結実することを期待したい。
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