令和7年1月1日
子育てから考える生活力を育てることの重要性
横浜国立大学教授 杉山久仁子この著者の書いた書籍
日本では仕事と育児の両立を支援する制度がジェンダーにかかわらず実施されており,ユニセフ「先進国の子育て支援の現状」(2021年)では,育児休業制度が41か国の中で1位と評価されている。しかし,厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」によると,育児休業の取得率は,男性30.1%,女性が84.1%で,男性の取得率は前年度よりも13%も増えていたが,女性の約3分の1程度である。また,取得期間は,女性は10か月から18か月未満が約6割,男性は少しずつ長くなってきているものの,1か月未満が約6割である。
総務省「令和3年社会生活基本調査」の6歳未満の子どもをもつ世帯内・家庭内の子育てを含む家事関連時間の状況では,1日に家事関連(家事,介護・看護,育児,買い物)に費やす時間は,共働き世帯で,夫は1時間55分,妻は6時間33分,専業主婦世帯で,夫は1時間47分,妻は9時間24分であった。夫は,共働き世帯と専業主婦世帯で変わらず2時間弱である。国際比較からは,日本は家事関連時間の男女差が他国より大きいことが明らかになっている。
日常的に家事関連にかかわっていない人が,子どもの出産を機に子育てに携わることは困難も多く,夫婦ともに育児休業中にストレスを感じていることなども報告されている。
日本では,若年層を中心に固定的性別役割分担意識に賛成する割合は減少しており,2019年の内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」では35%と過去最少であった。女性の就業継続を支持する考えをもつ人が6割に増加しており,家庭内の家事関連へのかかわり方も偏りが縮小していく方向が期待できるようになっていると思われる。
日本特有の固定的性別役割分担意識を弱めるためには,家庭内での考え方を変えていくことが必要であるが,親から子へ家事に対する考え方が引き継がれる状況では難しい部分がある。社会状況や家族のあり様が変化していく中,意識を変えるためには学校教育が重要である。そのことを証明するものとして,明治大学の原ひろみ教授らが「中学校『技術・家庭』の男女共修化には,性別役割分担意識を弱める長期的な効果があった」という論文を2023年に発表している。中学校「技術・家庭」が男女別学から男女共修になったのは1990年である。性別で,社会的な役割が異なると生徒に認知させないような教育カリキュラムや学校における活動が重要であることが示されている。
2023年12月には,こども家庭庁から「こども未来戦略」が発表され,子育てに関する支援が今後も推進される。家庭科では,家族・家庭,衣食住,消費や環境などに関する実践的・体験的な活動を通して,よりよい生活の実現を目指している。家庭科の小・中・高等学校の発達段階に応じた系統的な学びを保障し,学校教育の中で生活を工夫創造する資質・能力(生活力)を育成できるよう,学校現場の先生方と共に取り組んでいきたい。
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第121号令和7年1月1日
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