建帛社だより「土筆」

令和8年1月1日

日本調理科学会が拓く“調理科学”のこれから

一般社団法人日本調理科学会・会長 同志社女子大学教授 真部真里子この著者の書いた書籍

者が現在会長を務める,「一般社団法人日本調理科学会」は,調理に関する科学的研究の推進および知識・技術の普及を目的とする学術団体である。1968年に「調理科学研究会」として発足。多くの先生方が「調理科学」の学問性を確立し体系化を図るべく尽力され,1985年には日本調理科学会として新たな一歩を踏み出した。その後,2011年に一般社団法人化し,来年には創立60周年を迎える。

調理科学分野の研究対象は,食材の特性から調理操作,食べ物の嗜好性,さらには食の地域的・歴史的背景まで,「食」にかかわるすべての事象を包含している。それは,調理が単なる調理操作にとどまらず,食事計画から提供に至るまでの総合的な営みとして捉えられるためである。そのため,研究には,食品学や栄養学のみならず,心理学,家族関係学,環境学,防災学,歴史学,地理学など,多様な学問領域の知見が生かされている。この学際性は調理科学の魅力の一つだが,その一方で,研究成果が他分野の学会誌や大会に発表されることも少なくなく,学会としての発信力強化が今後の重要な課題となっている。

の課題解決に向けて,次代を担う若い世代の中に調理科学への関心の芽を育てることが欠かすことはできない。高等学校では2018年度から「総合的な探究の時間」が導入され,「理数探究」などの枠組みの中で,日常生活に根ざしたテーマとして調理科学的な課題に取り組む生徒もみられている。こうした探究活動への支援に加え,卒業研究に取り組む前段階の大学生に研究への理解を深める機会を提供することを目的とし,2025年度より,高校生と大学1~3年生を対象とした「ジュニア会員制度」を新設した。登録・大会参加はいずれも無料である。若い世代が調理科学に親しみ,研究へと踏み出すきっかけとなることを期待している。

た,研究成果のオープンアクセス化への対応も進めている。FAIR原則(Findable;みつけられる,Accessible;アクセスできる,Interoperable;相互運用できる,Reusable;再利用できる)に基づく研究成果の公開が求められる中,本年四月より,学会誌掲載論文をJ-STAGE上で公開猶予期間を設けずに発信することを決定した。これにより,会員の貴重な研究成果を迅速かつ広く適切に社会に届ける体制を整備していく。

らに,学会の社会的発信力を高めるには,研究成果の社会実装も不可欠である。本学会では2005年以降,被災地で炊き出しを行うNPO法人キャンパーと連携し,おいしく栄養バランスのとれた災害時メニューの開発に取り組んできた。今後は各支部が災害発生時の支援拠点となれるよう,キャンパーとの連携をさらに強化していく。

調理科学は,人々の生活そのものを研究対象とする実践的な学問である。その成果を人々のQOLやウェルビーイングの向上に還元し,社会に信頼される学術団体として一層の発展を遂げるべく,今後も努力を重ねていきたい。

目 次

第123号令和8年1月1日

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