
令和8年1月1日
信仰と健康
十文字学園女子大学教授 吉澤剛士この著者の書いた書籍
いまや健康は,誰もが関心を寄せるテーマです。テレビやインターネットでは健康情報が並び,書店には「免疫力アップ」や「腸活」「ウェルビーイング」といった活字が並びます。私たちは,病気にならず,できるだけ長く元気で生きたいと願い,健康食品やサプリメント,運動法などに時間もお金も費やしています。しかし,本当に“健康”とは,体に不調がない状態だけをさすのでしょうか。
世界保健機関(WHO)は,健康を「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定義しています。けれども,現実には誰しも多少の痛みや不安を抱えながら生きています。では,それでも「私は健康だ」と言える人と,「もうだめだ」と思い込んでしまう人との違いは,いったいどこにあるのでしょうか。
筆者はその答えの一端を,沖縄県久米島での調査の中に見いだしました。
久米島では,多くの高齢者が経済的には決して豊かとはいえない生活を送りながらも,穏やかで幸せそうに暮らしていました。日々の会話の中には「ヒヌカン」(台所にいる火の神をさし,家族の健康や病気からの回復,厄払いなどを祈願する)や「トートーメー」(先祖の位牌のことで,先祖崇拝の対象として各家庭で重要視されている)などの言葉が頻繁に登場します。そこには,祖先を敬い,子や孫を思う“つながり”の文化が深く根付いていました。彼らは,年金や医療制度のことよりも,「家族が大切」「孫が生きがい」といった先祖から子孫をつないでいく絆のような信仰心を重んじているのです。この信仰心こそが,久米島の人々の健康と幸福を支えているのだと感じました。そして,その信仰において「最も大切な家族との絆を絶やしたくない」という思いが,日本全体が少子高齢化の中にあっても,沖縄県がいまだに比較的高い出生率を保っている背景の1つではないかと思うのです。
「信仰」といっても,特定の宗教に属することを意味するのではありません。お墓でご先祖様に手を合わせたり,神社にお参りをしたり,朝日に向かって「今日も一日無事に過ごせますように」と祈ったりする。そんな日常の中の“敬う心”が,心を整え,ストレスを和らげ,他者とのつながりを育てるのです。よく,日本人には信仰心がないように言われますが,そんなことはありません。神社に行くとおみくじを引いたり,テレビで流れるその日の何とか占いに一喜一憂したりします。さらには,厄年に体の調子が悪くなるのであれば,厄除け大師ではなく,人間ドックに行くべきかと思うのですが,大勢の人が何とか不動尊へと厄除けに行くのです。科学的にみても,信仰や感謝の気持ちは,ストレスホルモンの抑制や免疫力の向上に関係すると言われています。
健康とは,数値や検査結果で測れるものだけではありません。「ありがたい」と思える心の豊かさこそが,最も確かな健康の土台です。久米島の人々が教えてくれたのは,“健康”とは生き方であり,他者とのつながりを大切にする信仰のかたちなのだということです。
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