
令和8年1月1日
「給食はまずい」を「給食はおいしい」に変える
龍谷大学教授 朝見祐也この著者の書いた書籍
「給食はまずい」。この言葉を耳にしたことがある人は少なくないだろう。大量調理によって栄養管理が徹底され,安全で衛生的な食事が提供されている一方で,「味気ない」「温かくない」といった声があがるのも事実である。どうすれば「給食はおいしい」と言ってもらえるのだろうか。
給食とは,特定多数人に対して食事を提供すること,あるいはその食事そのものをさす。学校や保育所,病院,高齢者施設,事業所など,給食の対象となる施設は実に多様である。栄養バランスや衛生管理に細心の注意を払い,対象者の健康を支えることを目的に食事がつくられている。
しかし,給食には根本的な弱点がある。調理から提供までに時間がかかるため,どうしても“できたて”のおいしさを保つことが難しい。特に近年では,人手不足や効率化の要請により,調理済みの料理を冷却・保存して再加熱する「作り置き方式」が増えている。人手の多い時間帯にまとめて調理し,提供時に再加熱する方法や,専用施設(セントラルキッチン)で大量調理した料理を配送して提供する方法などが代表的である。これらの方法は,限られた人員で安全・安定的に食事を提供するうえで有効といえる。だが,再加熱によって食感が変わり,香りが失われるなど,美味性が犠牲になる場合も少なくない。「効率化が進むほど,食事の喜びが遠のいていく」そんな現場の声も聞かれる。
とはいえ,人手不足は深刻で,従来の調理体制に戻ることは現実的ではない。今求められているのは「限られた条件の中で,どうすればおいしくできるか」を探る実践である。
ここにこそ,管理栄養士をはじめとする給食経営管理スタッフの知恵と工夫が生きると考えている。例えば,再加熱温度や時間を細かく記録し,対象者の食べ残しや満足度と照らし合わせる。調理工程ごとに官能的な変化を観察し,データを蓄積する。こうした地道な記録と検証の積み重ねが,施設独自の「最適な調理条件」を導き出す鍵となる。感覚や経験に頼るだけではなく,科学的根拠をもって改善を重ねることが,給食の美味性向上につながる。
さらに,現場での取り組みを学会や研究会で共有することも大切である。実践の知見が学術の場で共有されることで,調理技術や保存技術の新しい可能性がみえてくる。大学などの研究機関との連携が進むことは,“現場の経験”と“研究の理論”が融合し,より実効的な改善策が生まれるであろう。
給食が「おいしい」と感じられるようになれば,食べ残しは減り,食事を楽しみにする人が増える。それは,単に栄養を満たすだけではなく,心の満足をもたらすことにもつながる。給食とは,本来「命と心を支える食事」のはずである。
これからの給食には,効率化と美味性の両立が求められる。その実現は,現場の実践と研究の連携によってこそ可能になると考える。
給食はおいしいと,胸を張って言える未来へ。その挑戦は,すでに始まっている。
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