
令和8年1月1日
国内におけるスポーツ栄養学の発展
女子栄養大学教授 田中茂穂この著者の書いた書籍
筆者は先ごろ編者の1人として,「スポーツ栄養の食事計画 ―理論と競技特性にあわせた実践―」を建帛社より上梓することができた。2024年度に女子栄養大学で開催された日本スポーツ栄養学会第10回大会(大会長:香川雅春先生)で実行委員の1人であった以外は,日本スポーツ栄養学会にもほとんど貢献していないのだが,本稿では,日本スポーツ栄養学会を含めた国内のスポーツ栄養学の現状について触れたいと思う。
スポーツ栄養学は,体育・スポーツ科学の学生にとって,スポーツ心理学やトレーナーなどと並んで最も関心の高い分野の1つとなっている。しかし,特にトップアスリートを対象とする場合,対象者数が少なくなりがちなうえに,練習方法や日頃の食生活にこだわりがあるなど,個人の特性の考慮が難しい。また,時期によってトレーニングの量や内容が大きく変わることもある。厳密な研究デザインに基づく一律の介入も容易ではない。そのため,客観性と一般性を追究する科学としては扱いづらいという側面がある。そうした実情を打開すべく,樋口満先生(元・国立健康・栄養研究所,早稲田大学)の支援の下,田口素子先生(早稲田大学)や鈴木志保子先生(神奈川県立保健福祉大学)をはじめとする有志によって日本スポーツ栄養学会が立ち上げられたのは,2013年である。
現在,日本スポーツ栄養学会は会員数が2,000人を超えており,会員数増加が続いている数少ない(?)学会の1つである。日本スポーツ栄養学会には,独自の取り組みがある。前述のようなスポーツ栄養学の特性を考慮し,ケーススタディも明文化として公表できるよう,学会としてサポートしている。また,「データを有するスポーツ栄養の現場」と「スポーツ栄養に関心のある研究者」をマッチングしようという試みもある。
スポーツ栄養学では,最近,新しい知見や仮説が数多く出ている。例えば,長距離走やチームスポーツといった持久力が要求されるスポーツでは,いわゆるグリコーゲンローディングのように,試合前や日々のトレーニングにおいて高糖質食が有効だとされてきた。一方で,低糖質食を続けることで脂質利用を促しグリコーゲンの利用を節約する身体に変えていく「ファットアダプテーション(ファットアダプト)」という手法が提案されている。相変わらず驚異的な運動量を誇るサッカー日本代表の長友佑都選手も,この方法の実践者である。「筋肉をつけるためには,エネルギーやたんぱく質を1日当たりどのくらい摂ったらよいか」「発汗によるミネラルの損失をどのように評価・対処すればよいか」といった基本的な問いでさえ,意外と不明確である。食事のアセスメントの問題(過小申告など)も切実であり,栄養に関する様々な問題が顕在化しやすく,より繊細な対応が求められるスポーツ栄養学の成果は,一般健常者の栄養にもつながるはずである。
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