
令和8年1月1日
地中海に浮かぶ小さな国で得た学び
東京工科大学准教授 池田泰子この著者の書いた書籍
2025年8月末,マルタ共和国で開催された第33回国際音声言語医学会(International Association of Logopedics and Phoniatrics;IALP)に参加し,ポスター発表を行いました。IALPは,音声・言語病理学,聴覚学,嚥下,コミュニケーション科学の専門家や研究者が集う非営利の国際組織が主催する学会で,三年に一度開催されます。次回,2028年はチェコで開催,2031年は日本が誘致を進めています。
マルタ共和国は,地中海に浮かぶ東京都の半分ほどの小さな国で,直行便がなく,成田から約13時間,乗り継ぎのイスタンブールから約2時間半,長旅ではありますが,それでも訪れる価値のある国です。碧く輝く海と歴史ある街並みは,一度訪れたら忘れられません。
さて,本題に戻りましょう。言語聴覚士が対象とする領域はとても広く,「失語・高次脳機能障害学」「言語発達障害学」「発声発語・嚥下障害学」「聴覚障害学」の四領域に大きく分かれており,障害種は多岐にわたります。日本では各専門領域の学会が活発に活動していますが,IALPのように全領域を包括する「日本言語聴覚学会(日本言語聴覚士協会主催)」や「日本音声言語医学総会・学術講演会(日本音声言語医学会主催)」などでは,他分野の支援法や考え方に触れ,視野を広げる貴重な機会となります。
国際学会に参加して感じた最大の学びは,「言語障害者の立場を体験できること」です。現地では英語で思うように話せず,伝えたいのに言葉が出てこないもどかしさを何度も感じました。そのようなとき,相手が話す速度を落としたり,身振りを交えたり,理解しやすい単語を選んでくれたりすることで,安心して会話ができました。また,笑顔(表情)や,普段よりやや高めの声・ゆっくりとした話す速度・大きめの抑揚をつける話し方といった非言語的な配慮にも,コミュニケーション支援の専門家としての温かさが感じられました。この体験を通して,患者さんの気持ちに寄り添う姿勢の大切さを改めて実感しました。
今回,筆者の発表は「年表方式のメンタルリハーサル法により正常域への移行期まで改善した成人一例」という「吃音」の症例報告でした。吃音は原因が明確でないことが多く,臨床で訓練を行う専門家はまだ多くありません。しかし,厚生労働省の「言語聴覚士学校養成所指定規則」で「吃音(流暢性障害)」を学ぶことが定められているのは言語聴覚士だけです。
吃音のある方々は,思うように話せず,恥ずかしさや悔しさを抱えながらも,専門家への相談にたどり着けない現状があります。その状況を少しでも変えるため,吃音が訓練により寛解することを科学的に示していくことが,今,言語・コミュニケーションの専門家として筆者にできることだと感じています。
地中海の風の中で得た出会いと学びは,臨床と教育の両面で,今後の力となる貴重な経験となりました。
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