乳幼児期から始まり,子ども期,青年期,壮年期に生じる事がらを家族とのかかわりでとらえ,高齢期で終わるように章を構成。生涯発達を踏まえ,家族関係学を学ぶにあたっての基本的な用語を押さえ,家族の現実を理論や客観的なデータを使って説明するとともに,社会の変化を見据え,これからの家族のあり方にも言及した。 家族について学ぶ際の入門書となることを意図し,図表を多く掲載するとともに用語解説やコラムを加え,わかりやすい論述とした。各章の最後には学習課題を設け,大学等でのレポート課題としても取り組むことができる。 統計の更新等で最新の動向に対応した三訂版。
内容紹介
まえがき
はじめに
日本におけるここ60数年の家族の変化をおおまかに振り返ってみる。
1960~70年代は,経済の高度成長を背景に,男性は仕事・女性は家事育児という性別役割分業型家族が, 規範としても実態としても広まった。1980年代は,「国際婦人(女性)年とそれに続く国連女性の10年」の活動の中で,性別役割分業が女性の社会参加を阻んでいることが指摘され,批判が高まった。性別役割分業をジェンダー(社会的文化的性別)でとらえる視点も生まれた。
1990年代は,個人の価値や選好を優先する個人化の傾向が家族の領域まで及び,家族に関するそれまでのさまざまな規範が弱体化した。家族研究においては,性別役割分業・情緒関係重視・子ども中心などを特徴とする,いわゆる最も家族らしい家族を「近代家族」ととらえ,それは普遍的なものではなく,近代になってから誕生した家族であるから,時代とともに変わりうるという見方がされた。
2000年代になると,経済の構造改革の影響により非正規雇用が増え,経済格差が広まり,家族を形成・維持できる人々とできない人々の分断が始まった。近年は,「近代家族」的な規範は流動化し,日本においても家族の多様性の理解が進み,多様な家族のあり方を積極的に支援しようという取り組みも増加している。しかし,経済格差のさらなる拡大により,「近代家族」的な家族であれ,従来の家族規範にとらわれない家族であれ,多くの人がさまざまな生活上の困難に直面し,自らと家族の将来に不安を感じているのが実情である。
少子高齢化と人口減少が進行する中で,これからの家族はどうなっていくのだろうか。家族に代わる新たな社会システムは構築されるのであろうか。2019年末からのコロナ禍は,家族にどのような影響をもたらすのであろうか。
これから自らのライフコースを創る大学生がこうした家族の現実を学び,家族についての議論を深め,自分は家族とどのようにかかわっていくのかについて考えるための素材となることを意図して本書は執筆された。章の構成は,乳幼児期の「生まれる・育つ」から始まり,子ども期,青年期,壮年期に生じる事がらを家族とのかかわりでとらえ,高齢期の「支えられて生きる」で終わるように配列した。生涯発達を踏まえ,家族関係学を学ぶにあたっての基本的な用語を押さえ,家族の現実を理論や客観的なデータを使って説明するとともに,社会の変化を見据え,これからの家族のあり方にも言及したオーソドックスな教科書である。
序章は,家族の定義と機能に言及し,家族関係学を学ぶ意義について述べている。第1章は子どもが生まれ育つ家族と社会を概観し,子どもの育ちと家族地域社会との関係を述べている。第2章は子どもが直面している問題や子どもの生きづらさを取り上げ,第3章は若者のおかれている現状や青年期の親子関係の特徴について論じている。第4章は多様な性や若者の性行動,医療技術の進歩と生殖の変化などの状況,第5章は皆婚社会の終焉や日本の結婚の変化,第6章は夫婦関係の変化や発達,およびパートナーシップの現状と課題について論じている。第7章は離婚・再婚の動向をとらえ,ステップファミリーの家族関係について考察している。第8章は母親および父親の子育ての動向とその社会的支援を論じ,第9章はワーク・ライフ・バランス施策を紹介し,現状と実践について説明している。第10~12章は高齢者に関連した章で,第10章は親のケアにかかわる,第11章は高齢者の社会関係や生きがい,第12章は支えられて生きるという側面から論じている。終章は,これからの社会の変化と家族の変化の特徴を述べ,家族のつながり,家族を超えたつながりをどう創り出していくかに言及している。
本書は,大学生が家族について学ぶ際の入門書になることを意図しているため,図表を多く掲載するとともに用語解説やコラムも加え,わかりやすい論述を心掛けた。さらに,各章の最後には,学習課題を設け,レポート課題として取り組めるように工夫した。大学生だけではなく,家族についての理解を深めたいと思っている人にも,是非,読んでいただきたい。
今般,改訂版発行から数年が経過したため,一部の記述を改めるとともに,
統計の更新を行い, 三訂版を刊行することとなった。全体の構成は変更していない。より多くの方々にお読みいただきたいと願っている。
最後に,出版をご快諾いただいた建帛社に感謝申し上げたい。
2023年1月
編著者
目 次
序章 家族関係学を学ぶにあたって
1. 家族についての見方 2. 家族関係学を学ぶ意義
第1章 生まれる・育つ
1. 生まれる・育つ「社会」
2. 発達の基盤としての「家族」
3. 子どもの基本的生活習慣と家族
4. 子どもを取り巻く環境
第2章 子どもが直面している問題
1. 「子ども」とは誰か
2. 子どもをめぐる諸問題
3. 今の子どもの「生きづらさ」
4. 子どものエンパワメントを高める
第3章 青年期の自立と親子関係
1. 青年期の特徴と課題
2. 青年期の親子関係
3. 社会的自立に向けて
第4章 セクシュアリティ,性,生殖
1. 多様な性
2. 若者の性行動
3. 医療技術の進歩と生殖の変化
4. 子どもを産むということ
第5章 パートナーの選択と結婚
1. 皆婚社会の終焉
2. 結婚とは何か
3. 日本における結婚の変化
4. 結婚難への対応
第6章 夫婦関係の諸相
1. 夫婦関係とは
2. 夫婦関係の発達
3. 夫婦のパートナーシップの現状と課題
4. ドメスティック・バイオレンス
第7章 離婚・再婚とステップファミリー
1. 離婚の動向
2. 日本の離婚制度
3. 再婚とステップファミリー
4. ステップファミリーの家族モデル
5. 離婚・再婚後の家族関係のあり方
第8章 子育てと子どもの社会化
1. 「親になる」「親である」ということ
2. 母親の子育て
3. 父親の子育て
4. 子育てへの社会的支援
第9章 ワーク・ライフ・バランス
1. ワーク・ライフ・バランスとは
2. ワーク・ライフ・アンバランスな国,日本の現状
3. 子育てとワーク・ライフ・バランス
4. ワーク・ライフ・バランスのよい家族をつくるために
第10章 親のケアにかかわるということ
1. ケアの意味
2. 親との居住距離とケア
3. 男性の介護・女性の介護
4. 介護と仕事の両立
5. 介護ストレスと高齢者虐待
第11章 高齢期の社会関係と生きがい
1. 高齢期とは
2. 高齢者を取り巻く社会関係
3. ひとり暮らしの不安と問題
4. プロダクティブな高齢者
5. 幸せな高齢期を過ごすために
第12章 支えられて生きる
1. 要介護高齢者の動向
2. 高齢者の介護意識
3. 介護保険制度を利用する
4. 親しい人々との死別と適応
終章 社会の変化・家族の変化
1. 少子化・高齢化の進行
2. 結婚・家族・世帯の動向
3. 家族というつながり・家族を超えたつながり
書籍に関する
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