データ収集における研究デザインの理解や,結果を示すための数値的表現や統計学などを身につける。最新の統計調査データを反映。
内容紹介
まえがき
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はじめに
疫学と保健統計学は,看護学の他の多くの専門領域とずいぶん性格が異なる授業科目である。異質といってもよいかも知れない。そう感じている人も多いことであろう。実は,その感覚は正しいと思う。他の多くの専門領域は個人を対象にしているのに対し,疫学と保健統計学は集団を対象としているからである。
集団を対象にしているため,それに特化した理論と方法論があり,他の授業科目ではまず学ぶことのない独特な専門用語もでてくるし,数値的表現や計算式も多く,統計学の知識も必要となる。ところが,国家試験問題を意識して,理論抜きに計算式だけ,数値だけを覚えようとしたりすると,いつまでたっても,集団を対象にすることの理解も深まらないし,面白さもわからない。かつ,疫学と統計学は全く違う学問体系であるという,初歩も認識できずに終わってしまう。
学習すべきは,基礎となる理論とその応用としての方法論である。そうすれば,データを収集するための研究デザインの理解や,結果を示すための数値的表現や統計学などは,自然と身についてくる。健康課題に影響する要因が複雑多様化している現代では,基盤となる知識とそれを応用できる実践能力が必要であり,人々の健康をまもる役割を担う看護職となる学生に,疫学の重要性と面白さをわかってほしいと思う。そういう願いから,14 名の著者が自分の得意分野を書きあげたのが本書である。将来,保健師を目指す学生を主な対象としているが,実践者となってからも役に立ち,また臨床看護に従事しても,エビデンスに基づく看護の理解と看護研究に役立つ教科書としたつもりである。
本書の構成は,「保健師助産師看護師国家試験出題基準(平成 26 年版)」の「疫学」と「保健統計」の項に準拠している。ただし,「保健統計」に含められている統計学は「疫学と保健統計のための統計学」として独立させ,3 部構成とした。統計学の利用は「疫学」にもまたがることによる。わかりやすさの観点から,出題基準の順序を一部組み替えたり,独立させた項目もあるが,本質的な変更はない。
さらに,初学者でも学習しやすいように,側注で用語の参照頁や追加説明を加え,章末の余白頁などには本文の理解を助けるために,演習問題とその解説を示した。また,第Ⅰ部「疫学」と第Ⅲ部「疫学と保健統計のための統計学」の各冒頭には,それぞれの全体像を把握しやすいよう,出題基準にない章も設けた。巻末につけた和英・英和の専門用語の対照表は,疫学用語のチェックリストとしても活用できると思う。
とはいえ,不安もある。日本疫学会編集の『疫学辞典〔第 5 版〕』を参考に用語統一を図ったが,慣用的な使い方を一部残したし,編者の見落としがあるかもしれない。また,文脈を尊重して,内容的に他の著者と一部重複があっても,そのままとした個所もある。ご理解いただきたい。
本書が,ひとりでも多くの関係者に,疫学と保健統計学の面白さを伝えることになれば,著者一同,望外の喜びである。
2016 年 2 月 3 日
編著者を代表して 車谷典男
改訂版刊行にあたって
2016 年に,保健師教育が看護師と保健師の資格取得を教育課程とする統合カリキュラムから,選択制もしくは大学院での教育課程に変更されることになった。このことを受けて,保健師を目指す学生が集団である対象者の支援に必要な疫学・保健統計を学問として正しく理解し,実習だけでなく保健師として働く中で,もう一度手に取って活用できるようなテキストを作成したいとの思いから,実践経験豊かな著者を依頼して発刊したのが本書の初版であった。
2018 年には,対象者の支援に関わる専門職である看護師・管理栄養士教育にも活用されるように内容を見直し,「看護師・保健師・管理栄養士を目指す」を加えたタイトルに改題した。
それから 7 年。この間,疫学と保健統計を取り巻く医療保健福祉の健康課題の状況は大きく変化し,公衆衛生関連法規も新規に制定され改正も多くなされた。そこで今回,新たな著者も迎え,「看護師・保健師・管理栄養士を目指す」学生が国家試験対策のみならず卒後活動にも役立つ内容とすることを意図して,基礎的知識が修得でき,かつ職種の応用力につながる疫学と保健統計の実践的内容も含む改訂を加えた。
まず,看護師・保健師国家試験出題基準(令和 5 年版)および管理栄養士国家試験出題基準(令和4 年版)に準拠し,法令や衛生統計,疾病ガイドラインの更新をはじめ,第 7 章の主な疾患の疫学では「感染症」「産業保健」「環境」など,最新の動向・知見を反映したものとしている。また,いくつかの章で内容を一新した。用語については側注で解説を加えたほか,授業を担当する教員および読者である学生が読みやすいよう複数回出現する用語には初出関連頁を参照できるよう配慮した。
本書を読む学生が,健康事象に対応する疫学や保健統計の展開方法の理解だけでなく,面白さや奥深さを感じ,学ぶことへの関心を高められるように,いずれの章にも詳細な記述がなされているのも,他の教科書にはない本書の特徴であると自負している。各章を担当した著者の思いを感じてもらえると,本書の発刊に携わった者として嬉しく思う。
本書が,読者にとって実践的かつ有益な一冊となることを願っている。
2025 年 3 月
編著者を代表して 松本泉美・文鐘聲・車谷典男
目 次
第Ⅰ部 疫学 第1章 疫学の概念 A. 疫学の語源 B. 疫学でわかること C. 疫学とは何か D. 曝露と疾病発生 E. 因果関係の判断条件 F. 疫学研究における倫理 第2章 疾病頻度の指標 A. 有病割合 B. 罹患率 C. リスク D. 疫学指標の関係 第3章 曝露効果の指標 A. 相対危険 B. 寄与危険 第4章 疫学調査法 A. 対象集団の選定 B. 疫学研究のデザイン C. 誤差(エラー) D. バイアスの種類 E. 交絡とその制御法 第5章 スクリーニング A. スクリーニングの目的と要件 B. スクリーニングテストの有効性の評価 C. スクリーニング事業の評価 第6章 疾病登録 A. 疾病登録の意義 B. がん登録 C. 脳卒中登録 第7章 主な疾患の疫学 A. 母性関連疾患の疫学 B. 小児疾患の疫学 C. がんの疫学 D. 心血管疾患の疫学 E. 脳血管疾患の疫学 F. 糖尿病の疫学 G. 難病の疫学 H. 精神疾患の疫学 I. 認知症の疫学 J. 感染症の疫学 K. 不慮の事故の疫学 L. 学校保健の疫学 M. 産業保健の疫学 N. 環境の疫学 第8章 疫学と公衆衛生活動 A. 社会疫学 B. 政策疫学 C. エビデンスに基づく公衆衛生活動 第Ⅱ部 保健統計 第9章 人口統計 A. 人口静態統計 B. 人口動態統計 C. 生命表 D. 主な健康指標 第10章 保健統計調査 A. 基幹統計 B. その他の統計調査 C. 医療経済統計 D. 疾病・障害の定義と分類 第11章 情報処理 A. 情報処理の基礎 B. 文献検索 第Ⅲ部 疫学と保健統計のための統計学 第Ⅲ部を学ぶにあたって 第12章 統計学の基礎 A. 尺度の種類 B. 評価尺度 C. 主な確率分布 D. 要約統計量 第13章 統計手法 A. 関連の指標 B. 統計分析 C. Excel関数の活用 第14章 データの表現 A. 図で表現する B. 表で表現する C. プレゼンテーション 付録 巻末演習問題 疫学・統計学の主な用語 和英・英和対照表
書籍に関する
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