米飯変敗の科学 ―微生物変敗とその制御ー

著 者
発行年月日
2025年3月15日
ISBN
978-4-7679-6228-3
Cコード
C3047
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定価 9,350(本体価格:8,500円) 在庫あり

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内容紹介

すし,炒飯,おにぎりなどから弁当,レトルト,冷凍飯にいたるまで,「お米」の製品について,その変敗の原因菌と対策を多くの実験結果とともに科学的に詳説する。また,日本各地の郷土料理も紹介する。実際のそれぞれの食品の食中毒事例も豊富に掲載する。微生物の制御による食品衛生に長年取り組んできた著者の成果をまとめた。HACCPに沿った衛生管理がすべての食品関連事業者に義務化された今,事業者必読の一冊。

まえがき

ま え が き

 現在,米飯市場には日配米飯をはじめとして,レトルト米飯,冷凍米飯,無菌充填包装米飯,チルド米飯,缶詰米飯などのさまざまに加工された米飯が広がっている。このような急速な米飯業界の成長の要因として,世帯人数の減少単身赴任者の増加,女性の社会進出による簡便化ニーズの高まりや美味しくて安いおにぎりや弁当などの米飯を販売するコンビニエンスストアーの発達があげられる。また,米飯食品は地域ブランドとして育てるため各地域の行政や有志によってこれらを盛り上げる組織が結成されている。

 米飯はでんぷん質を主成分とし水分量が多いので変敗を生じやすい。高温で保存すると糸を引くようになり食べられなくなるが,変敗が激しくなると米粒が軟化・溶解することはよく知られている。米飯の変敗は極めて単純で,関係する微生物も複雑なものではない。それは,米飯の成分組成はでんぷんを主体としたもので,100℃で炊き上げるために炊飯直後の変敗細菌は Bacillus sub-tilis に限られるが,そのほか米飯を炊いた後に蓋を開いた直後から汚染する微生物に由来する。

 また Bacillus が産生する多糖類などが原因となるロープ,ネトといったバイオフィルム形成が見られる。Bacillus が産生する多糖類は多く,細胞内,細胞壁および細胞外に産生するが,生存のための自己防衛や,ほかの生物や食品に付着しやすくするために産生していることが多い。Bacillus のバイオフィルム形成はクロラムセンシングにより行われ,ほかの微生物や防腐剤などから細胞を守るために行われる。食品変敗過程ではこれらの現象は単独に起こるのではなく,2つ以上の現象が同時に進行している場合が多い。これらの食品変敗機構を解明することにより,微生物の知恵を学ぶことは有益であると思われる。

 米飯業界は,科学的精神で自社の食品変敗の問題に近接すべきであり,問題を解決させるために必要かつ正確な情報を持つべきであるという,一般的な健全な感情が広く存在しているけれども,米飯変敗の問題については比較的最近まで主としてこれまでの経験に基づいて行われてきた。しかし業界でも米飯変敗の原因に対する正確な情報を持つために,研究論文や統計資料を調べ,原因追究をする研究部門が設置されるようになった。だが,これらの研究部門で得られた事実および結論は内部秘密とされ,これがほかの企業のそれと比較されることは少なかった。

 微生物による米飯変敗は一定の規則に従って生成するので,原因解明および対策標準の設定は米飯産業全体に貢献すると考えられる。

 いろいろな米飯に対し,さまざまな条件の下で効果があることが立証されている方法は,基本的な関係に従って収集し分類されるならば,同一または異なった条件の下での他の食品において,さまざまな条件下で効果的であると立証された方法と比較することができる。したがって,この基本的原理は,合理的な思考の方向および健全な判断の形成を示すものとなる。

 米飯変敗に関してできるだけ多くのことを紹介するように努めたが,行き届かない点や不十分な点も多く残っていると思う。また,著者が間違って理解している点があるかもしれない。この点については読者の方々からのご意見やご批判をいただきたい。

 本書が米飯変敗の機構に注意を喚起し,この分野で研究する端緒になれば著者の望外の喜びになるであろうと信じている。

 おわりに,本書の出版にあたり精神的支援をいただいた内藤まさ氏,ご尽力・ご協力を賜った建帛社の編集部の方々に感謝する。

2025年2月

内 藤 茂 三

目 次

第1章 寿司の微生物変敗と制御

1.1 寿司の歴史と社会性

1.2 寿司と微生物

1.3 寿司の微生物変敗と制御

第2章 混ぜ飯および炊き込み飯の微生物変敗と制御

2.1 混ぜ飯の微生物変敗と制御

2.2 炊き込み飯の微生物変敗と制御

第3章 炒飯の微生物変敗と制御

3.1 炒飯の歴史

3.2 炒飯の調理技術

3.3 炒飯の種類と微生物

3.4 炒飯の変敗微生物

3.5 炒飯の微生物変敗制御

第4章 おにぎりの微生物変敗と制御

4.1 おにぎりの歴史と特徴

4.2 おにぎりに組み合わせる食品

4.3 おにぎりの微生物変敗と制御

4.4 おにぎりの微生物制御

第5章 粥,雑炊の微生物変敗と制御

5.1 粥,雑炊の歴史と社会性

5.2 粥と微生物変敗

5.3 雑炊の微生物変敗

第6章 赤飯とおこわの微生物変敗と制御

6.1 もち米の歴史と社会性

6.2 もち米と微生物

6.3 赤飯と微生物変敗

6.4 おこわと微生物変敗

6.5 赤飯,おこわの惣菜の微生物

第7章 丼物の微生物変敗と制御

7.1 丼物の歴史と特徴

7.2 主な丼物と微生物制御

第8章 米飯弁当の微生物変敗と制御

8.1 米飯弁当の歴史と社会性

8.2 代表的な米飯弁当

8.3 米飯弁当による食中毒

8.4 米飯弁当の微生物変敗と制御

第9章 レトルト米飯および無菌包装米飯の微生物変敗と制御

9.1 レトルト米飯の歴史と特徴

9.2 レトルト米飯と微生物

9.3 無菌包装米飯の歴史と特徴

9.4 無菌包装米飯の微生物

第10章 チルド米飯および冷凍米飯の微生物変敗と制御

10.1 チルド米飯の歴史と特徴

10.2 チルド米飯加工の科学

10.3 チルド米飯と微生物

10.4 チルド米飯の微生物変敗制御

10.5 冷凍米飯の歴史と特徴

10.6 冷凍米飯加工の科学

10.7 冷凍米飯の微生物変敗と制御

索引

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書籍情報

シリーズ名・巻数
書籍名 米飯変敗の科学
著 者
分 野
シリーズ
ISBN 978-4-7679-6228-3
Cコード C3047
定 価 9,350円 (本体価格:8,500円)
発行年月日 2025年3月15日
版型・装丁 A5 上製
ページ数 520ページ
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