建帛社だより「土筆」

平成24年1月1日

今の時代に生活文化を見つめる意義

京都教育大学教授  榊原 典子この著者の書いた書籍

 しい学習指導要領が,今年度から順次,小学校・中学校・高等学校ではじまり,平成25年度には完全に移行する。平成10年度改訂では,ゆとり教育の必要性が掲げられ「生きる力」の育成を基本的なねらいとし,総合的な学習の時間が創設されたが,今次の改訂では知識基盤社会の到来を受け確かな学力を保障するため,教科学習重点化への回帰がなされた。

 回の改訂で家庭科(家庭分野)は,小・中・高ともに時間数・単位数の増加はなく,むしろ中学校では選択教科としての時間がなくなる。内容をみると,小・中での領域の統一化や基礎基本の重点化がみられる。そのような中,生活文化についての内容が中学校で増えてくる。すなわち,地域の食文化について取り上げることが必修になり,和服の基本的な着装を通して衣文化を扱ってもよいことになるのである。

 都は和の文化が色濃く残る町である。その点が魅力となって,一年を通して多くの観光客が国の内外から訪れている。しかし,そこに住んでいる者の多くは,テレビや新聞を通じて紹介される京都によって,あらためてその文化を意識している。京文化を支え維持してきた伝統の技や暮らしを深く考え本物に触れる機会はそう多くないのである。

 員養成を目的とする本学大学院の授業では,生活文化を考える機会を設けている。一つは,都であった京都府南部のいわゆるよく知られた京都の生活文化である。もう一つは,京都府北部(丹後地方)の生活文化である。そこには府下で唯一全日制の専門学科として家政科をもつ高校がある。

 者では,京都市中心部で展開される生活文化の中で,核と思われるものを受講者に調べさせている。京町家や風呂敷,和菓子など京都での生活に深くかかわっているものを取り上げ,その実物に触れたり,制作工程を実地に見たり,職人の方に話を聞いたりして,生活の中に根付いているこれらを深く知ることで,生活とは何か,その成り立ちを文化の視点からとらえることを意図して開講している。

 者は,宿泊研修を含む形態で,複数の担当教員で実施している。この授業を開講するまでは,京都府北部の生活文化が,南部のそれとこれほど異なるとは思っていなかった。最初は,専門学科系高校の実態を知ることが目的で訪れたのだが,そこで取り組まれていた教育内容から,その土地の生活文化に触れ,目を開かれた。実際には,「丹後寿司(ばら寿司)」「丹後ちりめん」を取り上げ,見学や体験を交えて地域の方の話をじかに聞く演習にしている。

 学での取り組みを述べてきたが,小学校ではプロの料理人による京料理の出前授業が行われたり,高等学校でも着物の着付けや茶道・華道など若者の伝統文化に触れる機会が設けられたりしている。

 国には各地域の気候風土や歴史に裏打ちされた生活文化が展開されてきたと思う。生活を総合的に見つめる家庭科では,消えゆくこれらの生活文化と新しい姿に豊かさとは何かを問いながら,今という時代とこれからを考える機会にしたいものである。

目 次

第95号平成24年1月1日

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