平成24年1月1日
タイとの交流四半世紀
女子栄養大学教授 武藤 志真子この著者の書いた書籍
タイの北部に位置するチェンマイ大学医学部の先生と研究交流が始まってから20年以上が経ちました。チェンマイはタイ第二の都市ですが,環境も住んでいる人々も穏やかで,老後はチェンマイで暮らしたいというタイ人が多いそうです。1296年(日本の鎌倉時代末期)に,さらに北部のチェンライから遷都して以来,16世紀の半ばまでランナータイ王国(タイ族)の王都として栄え,現在も堀に囲まれたオールドタウンがあります。
チェンマイにはチャオプラヤー河の支流であるピン川が流れており,今年の9月末にこの川が氾濫して洪水になりましたが,タイの友人のメールでは,10月には水がひいたようです。いくつかの支流の水がチャオプラヤー河に流れ込み,ゆったりと南下しているため,洪水がバンコクの中心街にせまり,水がなかなかひかない状況が報道されていました。タイのキーワードの一つは「南下」でしょう。王朝もチェンマイとほぼ同時期のスコータイ王朝,アユタヤ王朝,トンブリ王朝,バンコク王朝と南下してきました。
昨年,タイの友人がわが家に泊まっている時に,黄色と赤色のシャツグループの対立があり,タイに帰れるのかと心配しましたが,心配しているのは私ばかりで,タイの方々はのんびりしていました。「マイペンライ」という大らかさがあり,付き合いやすい国民性があります。それは近年植民地になったこともなく,戦争に負けたこともないという,外交上手の歴史も影響していると思います。また,暖かい地域なので作物の成長が早く,飢える心配がないことも影響しているでしょう。第二のキーワードは「大らかさ」です。現在,韓国とも国際交流を行っていますが,韓国の著名な先生のお話では,韓国人の「恨」は「うらみ」ではなくて,中国や日本に圧迫され,植民地にもなった民族としての「悲しみ」ということでした。
20年前と比較すると,タイは都市部やその周辺を中心に経済成長が著しく,大きく変わりました。20年前はバンコクの街を古い車が走り,車を縫って,幼い子どもが花を売りに寄ってきました。チェンマイ近郊の村での調査も,目的は栄養失調の改善でした。現在は,日本と同様に肥満と生活習慣病が健康上の大きな課題です。タイも健康転換をほぼ終えました。20年前の農家にはガスや水道もなく,タライで水浴びをしていましたが,現在その地域はベッドタウン化して,瀟洒な家並みとなっています。第三のキーワードは「都市化・欧米化」でしょう。
私がタイに行く度に泊めていただくチェンマイ大学の教授の家は,広々としてプール・ガス・水道・電化製品・数か所の浴室があり,住み込みでお手伝いをする人がいます。国民の社会・経済的な格差は日本より大きいようですが,都市化・民主化はその格差に気づかせ,それが従来の中流以上の国民が支持する黄色シャツと,主に農民や中流以下が支持する赤シャツの対立に繋がっているのだと思います。洪水や赤と黄の対立は,タイにとっての試練ではあるでしょうが,民族としての大らかさと誇りは「ほほえみの国」タイが,欧米とは異なる「幸せ」の価値観を生んでいくのではと私は期待しています。
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